トロンフォーラム

IEEE MILESTONE
  1. TRONリアルタイムOSファミリーがIEEEマイルストーンとして認定
  2. IEEEマイルストーン記念式典
  3. IEEEマイルストーン受賞スピーチ
  4. 参考情報

TRONリアルタイムOSファミリーがIEEEマイルストーンとして認定

2023年5月に「TRONリアルタイムOS ファミリー」がIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子学会)注1)によりIEEEマイルストーンとして認定された。

IEEEマイルストーンは、IEEEの広範な活動分野である電気・電子の分野の画期的なイノベーションの中で、公開から少なくとも25年以上経過し、社会や産業の発展に多大な貢献をした歴史的業績を認定する制度である。

今回のマイルストーンの対象は“TRON Real-time Operating System Family, 1984”である。1984年に東京大学の坂村健(当時助手)のもとで未来のコンピュータ応用の分野向けにITRON、CTRON、BTRON、MTRONが提案された注2)。その中でもITRONリアルタイムOS仕様が1984年に最初に提案されて、それを実装したOSが広く使われた。これらは現在も改良され、進化し続けている。トロンフォーラムはT-Kernelを皮切りに、小規模版のµT-Kernel、マルチプロセッサ版のAMP T-Kernel、SMP T-Kernelなど多くのバージョンを発表・公開している。今回のIEEEマイルストーンが対象とするのは、これらのリアルタイムOS群全体である(図1)。

fig01図1 TRONリアルタイムOSのロードマップ

 

認定理由の全文は以下のとおりだ。

In 1984, a computer architecture project team at the University of Tokyo began designing The Real-time Operating system Nucleus (TRON) OS family and helping external partners commercialize it. Specifications and sample source code were provided openly and freely, facilitating innovations by developers and users. TRON real-time OS family copies have been adopted worldwide in billions of embedded computer devices, including aerospace and industrial equipment, automotive systems, and home electronics.

1984年、東京大学のコンピュータ・アーキテクチャのプロジェクトチームが、OSファミリー「The Real-time Operating system Nucleus(TRON)」の設計と、外部パートナーによる製品化の支援を開始した。仕様書やサンプルソースコードをオープンかつ自由に提供し、開発者や利用者のイノベーションを促進した。TRONリアルタイムOSファミリーは、航空宇宙機器、産業機器、車載機器、家電製品など、世界中で数十億台の組込み機器に採用されている。

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IEEEマイルストーンはIEEEの中でも特に権威があるもので、認定の銘板はIEEEの会長(あるいは前会長、次期会長)が参加する贈呈式で手渡されるのが通常であり、2023年10月14日に東京大学キャンパスでIEEE次期会長 トーマス・コフリン(Thomas M. Coughlin)博士が参加して銘板の贈呈式が執り行われ、一般公開された。

IEEEマイルストーンの歴史

IEEEは、人類の利益のために技術を進歩させることを目的とした世界最大の技術専門組織である。IEEEとIEEEメンバーは頻繁に引用される出版物、国際会議、標準規格(スタンダード)、および専門的・教育的活動を通じ、航空宇宙システム、コンピュータ、テレコミュニケーションから、バイオメディカル・エンジニアリング、電力、コンシューマ・エレクトロニクスに至るまで、幅広い分野で信頼されている。

IEEEマイルストーンとして認定された業績は世界中に多数ある。古いものには1700年代に凧を使って雷を調べたベンジャミン・フランクリンがイギリスの王立協会で発表した手紙もマイルストーンに認定されている。第二次大戦後にはトランジスタの発明と量産、レーダーの発明もある。IT関連ではIntel 4004、イーサネット、Xerox Alto、Apple I/II、Macintoshなどがある。電力発電関連とか衛星通信関連などIEEEの扱う分野の広さを感じさせるマイルストーンも多い 注3)

日本ではQRコード、富士山レーダー、新幹線をはじめとした40以上の業績が認定されている。日本の電気電子分野の過去100年の工業力、特に戦後の電気、電子産業の力を示しているといえる注4)

TRONリアルタイムOSファミリーもこれらと同様の重要性があると認定されたことになる。

申請

IEEEマイルストーンは、IEEEのHistory Committeeという委員会で評価され、認定されるという手続きを踏む。 TRONプロジェクトの開始は1984年であり、25年以上の歴史という条件は満たす。そこで2022年夏、トロンフォーラムでは龍谷大学名誉教授の長谷智弘氏と協同でIEEE指定の申請書類の準備を開始した。その最終版の全文はウェブサイトで公開されている注5)

申請後History CommitteeがAdvocate(推薦人)を任命する。Advocateは第三者に査読を依頼し、必要ならばさらにヒアリングをして最終レポートをHistory Committeeに提出し、そこで適否の判断が下される。

History Committeeの窓口となったRobert Colburn氏(Milestone Administrator)ならびに今回AdvocateとなっていただいたDr. Sergei Prokhorov(Chair of IEEE Computer Society Russia Chapter)には大変にお世話になり感謝している。

査読と審査

この申請書類の評価のために、以下の方がたが専門的な査読をしてくださった。

Mr. Steve Diamond, IEEE Computer Society元会長:トロンフォーラムの坂村会長は、1999年から2001年にかけてIEEE MICRO誌の編集長を務めたが、その直前まで同誌の編集長だった。

権藤 正樹 氏(イーソル株式会社 CTO):イーソル社はトロンフォーラムの会員であり、多数のTRONリアルタイムOS関連の商品を販売してきており、マーケットの視点から査読が行われた。

Dr. Tan Su Lim, Associate Professor, Singapore Institute of Technology:Dr. Limは、µITRONとµT-Kernelの性能評価を他のリアルタイムOS製品と比較した論文を執筆しており注6)、この分野の専門的な査読が行われた。

fig02IEEE MICRO, April 1987
fig03µITRON 3.0仕様書(IEEE 1997年刊)
fig04TRONプロジェクトシンポジウムの1991年から1996年までの論文集(IEEE刊行)

議論を経て最終提出へ

査読の過程では議論のための電子掲示板が用意されており、そこに以下の方がたから好意的なコメントをいただいた。

Mr. James J. Farrell III, IEEE MICRO元編集長(1985-1987):Farrell氏がIEEE MICROの編集長を務めていたときに、彼の招待で坂村会長がゲスト・エディターとしてTRON Projectの特別号(April 1987)を発行した。この号のTRONリアルタイムOSに関する複数の記事が英語の参考文献の証拠として有効であった。マイルストーン認定に賛成いただいた。

Dr. Konstantinos Karachalios, the managing director of IEEE Standards Association(SA): IEEE SAがµT-Kernel 2.0をベースにしたIoTエッジノード向けリアルタイムOSの仕様を作る際に、著作権の委譲などの手続きを担当した。これは、現在IEEE 2050-2018としてIEEE標準になっている。TRONリアルタイムOSについての好意的なコメントをいただいた。

一色 正男 氏(神奈川工科大学特命教授):TRONプロジェクトが世界に先駆けて行ったスマートハウスの研究で、TRONリアルタイムOSが重要だった旨のコメントがあった。

TRONプロジェクトのこれまでの研究活動、学会活動、実用化・製品化での交流、TRONプロジェクトのオープンな活動が認定賛成者を集めるのに役立った。

申請書の提出は2022年10月3日。2023年2月10日にHistory Committeeで承認された。引き続きIEEE Board of Directors(BOD)において承認され、5月23日に正式な認定の通知が届いた。

おわりに

今回のIEEEマイルストーンの認定においては、龍谷大学名誉教授の長谷智弘氏をはじめとしてたくさんの方がたのご支援をいただいた。また、福田敏男IEEE元会長、IEEE JapanカウンシルやIEEE東京支部の方がたに多くのご支援をいただいた。この場を借りて深く感謝申し上げる次第である。


コラム1 IEEEマイルストーン
IEEEマイルストーンは、IEEEに関連するあらゆる分野における重要な技術的業績を称える制度である注7)。ユニークな製品、サービス、重要な論文、特許に見られる人類の利益につながる技術革新と卓越性を評価する。IEEE History Committeeのプログラムであり、IEEE History Centerを通じて運営されている。

IEEEマイルストーンは、1983年に始まった。1984年のIEEE創立100周年記念式典に合わせて、IEEEが代表する専門職や技術を生んで育てた巨人の世紀(Century of Giants)の功績を称えるために設立された。

各マイルストーンは、IEEEに代表される技術分野において、誕生・公開してから25年以上が経過し、地域での広がり以上の影響を与えた重要な技術的業績を認定する。2023年10月までに、世界中で240以上のマイルストーンが承認され、認定銘板が贈呈されている。

日本においては、これまで以下の業績が認定されている注4)

No名 称贈呈式開催日
1QR(Quick Response)Code、19942022年9月26日
2インバータエアコン、1980-1981年2021年3月16日
3プッシュプル締結方式を採用したフィジカルコンタクト(PC)接続による光ファイバコネクタ、1986年2021年3月5日
4世界初の商用信号処理プロセッサ、1980年2020年12月15日
5大規模遺留指紋照合システム、1982年2020年12月15日
6高電子移動度トランジスタHEMT、1979年2019年12月18日
7屋外用カラー大型表示装置、1980年2018年3月8日
8アンテナにおける自己補対の原理と虫明の関係式の発見2017年7月27日
9野辺山45m電波望遠鏡2017年6月14日
10温度無依存水晶振動子2017年3月6日
11地図型自動車用ナビゲーションシステム2017年3月2日
12蹴上発電所2016年9月12日
13ハイビジョン2016年5月11日
14緊急警報放送2016年5月11日
15高品質光ファイバの量産製造技術「VAD法」2015年5月21日
16MUレーダー(中層超高層大気観測用大型レーダー)2015年5月13日
17TPC-1太平洋横断ケーブルシステム2014年11月12日
1820インチ光電子増倍管2014年11月5日
19電力用酸化亜鉛形ギャップレス避雷器(MOSA)2014年8月18日
20テレビ用14インチTFT液晶ディスプレイ2014年6月10日
21高圧縮音声符号化のための線スペクトル対2014年5月22日
22日本の一次・二次電池産業の誕生と成長2014年4月12日
23東芝T1100、ラップトップPC開発のパイオニア的な貢献2013年10月29日
24G3ファクシミリの国際標準化2012年4月5日
25電界放出型電子顕微鏡2012年1月31日
26直接衛星放送サービス2011年11月18日
27太陽電池の商業化および産業化2010年4月9日
28黒部川第四発電所2010年4月9日
29太平洋横断衛星TV中継2009年11月23日
30高柳テレビジョン2009年11月12日
31フェライト2009年10月13日
32依佐美送信所2009年5月19日
33日本語ワードプロセッサー2008年11月4日
34鉄道用自動改札システム2007年11月27日
35世界標準家庭用ビデオVHSの開発2006年10月11日
36電卓の先駆開発2005年12月1日
37電子式水晶腕時計2004年11月25日
38東海道新幹線2000年7月13日
39富士山レーダー2000年3月6日
40指向性短波アンテナ1995年6月17日
コラム2 TRONプロジェクトに関係する国際標準
TRONプロジェクトでは仕様やソースコードをオープンにするだけでなく、ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)やISO(国際標準化機構)などの国際標準化団体に積極的に標準仕様を提案し、基盤技術の国際標準化に貢献している。

米国の標準化団体IEEE SAが2018年に定めた小規模組込みシステム向けリアルタイムOSの国際標準規格IEEE 2050-2018では、トロンフォーラムが開発したリアルタイムOS µT-Kernel 2.0の仕様がベースに採用された。最新のµT-Kernel 3.0は、IEEE 2050-2018に完全に準拠した国際標準のリアルタイムOSとなっている。

またIoT時代にさまざまなデバイスやデータの同定を行うための識別子システムucodeを提案し、それをもとにしたコード体系がITU-Tで標準化されている(Y.4804/H.642.1)。これに関連する標準、ITU-T Y.4551/F.771、Y.4802/H.642.2の制定にも貢献している。

注1) https://jp.ieee.org/https://www.ieee.org/
注2) ITRON:Industrial TRON(リアルタイムOS)。CTRON:Communication and Central TRON(通信制御向けOS)。BTRON:Business TRON(パーソナルコンピュータ向けOS)。MTRON:Macro TRON(各TRON仕様OSをつなぐ分散コンピュータ向けOS)
注3) https://ethw.org/Milestones:List_of_IEEE_Milestones
注4) https://ieee-jp.org/activity/jchc/milestone_jusho.html
注5) https://ieeemilestones.ethw.org/Milestone-Proposal:TRON_Real-time_Operating_System_Family,_1984
注6) Tran Nguyen Bao Anh, Su-Lim Tan, "Real-Time Operating Systems for Small Microcontrollers", IEEE Micro, vol. 29, no. 5, Sept-Oct. 2009 https://ieeexplore.ieee.org/document/5325154
注7) https://ieeemilestones.ethw.org/

IEEEマイルストーン記念式典

日時:2023年10月14日
会場:東京大学 ダイワユビキタス学術研究館


fig062023年5月に「TRONリアルタイムOS ファミリー」が、IEEEによりIEEEマイルストーンの“TRON Real-time Operating System Family, 1984”として認定された。その記念式典として、10月14日に授賞式と記念講演会、除幕式が行われた。会場となったのは、銘板を恒久展示した東京大学本郷キャンパスのダイワユビキタス学術記念館だ。TRONリアルタイムOSの開発を牽引してきた坂村健教授が東京大学在籍中に設計・建築に携わった馴染み深い建物内のホールでの式典となった。長年苦楽を共にした仲間たちの手により、終始和やかで祝福あふれるセレモニーが行われた。

式典にはIEEE東京支部長の相澤清晴氏、東京大学副学長の染谷隆夫氏、IEEE元会長の福田敏男氏、IEEE Region 10元Directorの西原明法氏、IEEE Japan Council History Committee Chairの白川功氏、イーソル株式会社の権藤正樹氏、東京大学大学院情報学環の越塚登教授、そしてトロンフォーラムなどの関係者が出席し、挨拶や祝辞のスピーチが行われた。

IEEE次期会長のトーマス・コフリン博士によるスピーチに続いて、檀上でコフリン氏から坂村教授に銘板が贈呈され、記念撮影が行われた。その後、坂村教授による記念講演会が行われた。式典ののち、一行は会場1階のエントランスホールに移動し、坂村教授とコフリン氏の手により銘板の除幕式を行った。 式典はすべて英語で行われた。本稿では、出席者各位による挨拶メッセージと記念講演会の内容をお届けする。

主催者からの挨拶

相澤 清晴 氏

(IEEE東京支部 支部長)

本日、坂村健教授やIEEE次期会長のトーマス・コフリン氏をはじめとした多くの方々とこの日を迎えられたことをたいへん嬉しく思います。 1983年に創設されたIEEEマイルストーン・プログラムは、電気・電子・情報技術の分野において、少なくとも25年以上にわたって社会と産業の発展に多大な貢献をした画期的な技術革新を表彰するための活動です。2022年までに世界で合計237のマイルストーンが認定されました。これらの中には、18世紀のベンジャミン・フランクリンの業績やボルタ電池の発明なども含まれています。また、20世紀の発明としては、ラジオ、テレビ、半導体、コンピュータ、インターネットなど、多くの電気通信分野に関する技術等がIEEEマイルストーンに認定されています。

日本で最初に行われたマイルストーンの贈呈式は、1995年に東北大学で行われた短波アンテナ、いわゆる「八木アンテナ」の認定式でした。2022年までに日本では40のマイルストーンが認定され、そのうち22がIEEE東京支部の担当地域で認定されたものです。そして、先週、垂直磁気記録の発明に対して東北大学に日本で41番目のマイルストーンが献呈されました。これはIEEE仙台支部の担当地域でした。TRONリアルタイムOSファミリーは、日本で42番目、そして東京支部では23番目のマイルストーンとなりました。

1984年に東京大学の坂村教授が提唱したTRONリアルタイムOSファミリーは、何の制限もなく、オープンであるため、自由にコードを利用できます。産業機器、車載機器、家庭用電化製品など、何十億もの機器に使用されています。今日のIoT社会に不可欠な役割を果たしており、まさにマイルストーンにふさわしい成果だと考えます。

来賓からの挨拶

染谷 隆夫 氏

(東京大学 理事・副学長)

TRONリアルタイムOSファミリーのIEEEマイルストーン認定を祝うという重要な場に参加できることをたいへん光栄に思います。東京大学総長の藤井輝夫に代わりまして、私からご挨拶いたします。

TRONプロジェクトは、1984年に当時東京大学の助手だった坂村健博士によって始められた産学協同プロジェクトです。TRONプロジェクトでは、長期的なビジョンに基づき、IoT時代の到来を見据え、さまざまな応用分野に対応したリアルタイムOSの開発を推進してきました。リアルタイムOSは、家電製品、産業機器、自動車などで、ブラックボックスのように動作するシステム・ソフトウェアだと理解しています。TRONリアルタイムOSはさまざまな製品に幅広く採用されており、技術の標準化も目指しています。現在では日本だけでなく、世界各国で広く使われています。

このような産業界の基盤技術が約40年前に本学で生まれ、今も進化を続けていることを、嬉しく思っています。また、世界最大の専門家組織の一つであるIEEEが、この技術の産業界への影響を認め、IEEEマイルストーンとして認定し、銘板が本学の校舎に恒久的に設置されることはたいへん名誉なことです。

福田 敏男 氏

(IEEE 2020年度会長)

世界最大の専門家組織であるIEEEがこのたびTRONリアルタイムOSのすばらしい功績をマイルストーンとして認定しました。ご存じのとおり、マイルストーンに認定されるには25年以上にわたり、産業や社会に対して貢献している必要があります。

私と坂村教授は40年以上の長い付き合いになります。私はロボット工学、そして坂村教授はTRONをメインとした情報科学と、お互い違う分野で日々研鑽してきたのも良かったのかもしれません。坂村教授の講演は本当にすばらしいので、2004年にアメリカのニューオーリンズでIEEEがロボット工学とオートメーションに関する年次大会を開催した際に、坂村教授に講演をお願いしたことがあるなど、多くの楽しい思い出があります。共通の教え子がいたり、坂村先生の教え子の越塚登教授のところで私が講義をさせていただいたりと、とても良い関係を築いてきたと思います。

坂村教授、越塚教授、そして、ここにいらっしゃる皆様とのお付き合いを本当に楽しんできました。このたびTRONリアルタイムOSがIEEEマイルストーンに認定されたということで本当に嬉しい思いです。

白川 功 氏

(IEEE Japan Council History Committee Chair)

今回の受賞にあたり一言だけですが、はっきりと言えることがあります。それは、偉大な坂村教授の功績は非常にすばらしいもので、大成功を収めた発明だと言わざるを得ません。今後TRONプロジェクトがより大きな成功を収めることを願っています。

トーマス・コフリン 氏

(IEEE次期会長)

TRONリアルタイムOSファミリーは、坂村健教授と東京大学のコンピュータ・アーキテクチャプロジェクトチームによる革新的な精神と先駆的な取り組みにより開発され、現在では世界中で数十億台のコンシューマ向け機器やその他の機器に組み込まれています。

IEEEがどのような団体であるかは、ここでは改めて説明せずに、IEEEの遺産についてお話ししたいと思います。IEEEの遺産はイノベーション(革新)と協力の物語といえます。IEEEの創設者たちは、技術の向上で一般の人々を支援することを目的に協力の精神から集まりました。その中には、アレクサンダー・グラハム・ベルやトーマス・エジソンもいました。そして、1884年にIEEEの前身となるアメリカ電気学会(AIEE、American Institute of Electrical Engineers)が設立されて以来、我々は人類の利益のために技術の進歩を促進してきました。

IEEEには、エネルギー、通信、コンピューティングにおける技術革命の最前線に立ってきた約140年にわたる歴史があります。実際には2024年でちょうど140年となります。IEEEの活動は前述の技術的進歩を支えてきた基礎分野となるハードウェアとソフトウェア、そして、現代の生活水準を形成してきた産業活動、消費者向け製品、輸送、医療、その他多くの領域における応用分野とで構成されています。

エンジニアリング(工学)という職業には、長く豊かで重要な歴史があります。我々の活動により世界に多くの富を生み出している、ともいえるのではないでしょうか。我々の先駆的な技術開発や発見、そして、坂村健教授や東京大学の同氏のチームのように技術開発や発見の背後にいる人々が、何世代にもわたって認識され、賞賛されることが不可欠なのです。

世界最大の技術団体であるIEEEの重要な使命は、我々の専門的な研究の遺産と伝統を守り、偉大な業績を称え、エンジニアリングの重要性と影響力を促進することです。

IEEEは設立以来、History Committeeを常設しており、理事会に対してIEEEとその会員、および関連する専門職や技術に関する事項についての助言などのさまざまな活動を行っています。

2020年に設立40周年を迎えたIEEEヒストリーセンターの使命は、情報技術および電気技術の歴史を保存、研究、促進することです。同センターは、エンジニア、学生、技術史の研究者、そして、電気工学、コンピュータ工学の発展と現代社会における技術の役割に関心のあるすべての人々にとって有用な多くのリソースを所蔵しています。

同センターは、エンジニア、科学者、技術者がどのようにグローバル社会に貢献し、技術的に進歩した現代社会の構築に寄与してきたかを、世界中の地域社会に理解してもらうために重要な役割を果たしています。その方法の一つが、IEEEマイルストーン・プログラムです。

IEEE財団への寄付金によって運営されるこのIEEEマイルストーン・プログラムは、技術革新の長い歴史の中での偉大なる瞬間を表彰するものです。IEEEマイルストーン・プログラムは、IEEE100周年記念事業の一環として1983年に始まりましたが、今回が世界では240回目のマイルストーン認定、そして、IEEE東京支部にとっては23回目の認定となります。

IEEEマイルストーンは、電気・電子・コンピュータ関連の技術者の社会貢献と、人類に貢献する技術の発展を目指して、数え切れないほどの多くの技術者たちが成し遂げた躍進に対して、一般市民の理解を深めるのに役立っています。

マイルストーンは、IEEE各セクションの会員が、自らの仕事とその業績に誇りを持つための手段でもあります。エンジニア、科学者、技術者が自国だけでなく、国際社会にも貢献し、今日の技術的に進歩した世界の構築に寄与してきたことを地域社会に示すものです。

TRONリアルタイムOSファミリーは常にオープンかつフリーであり、そのアプローチは斬新で強力であることが証明されています。今日、TRON仕様に基づくリアルタイムOSは、自動車のエンジン制御、人工衛星、携帯電話、ゲーム機、その他多くの家電製品に至るまで、コンシューマ・エレクトロニクスだけでなく、あらゆる分野で利用されています。

本日はお話しする機会をいただきありがとうございました。

産業界からの祝辞

権藤 正樹 氏

(イーソル株式会社 専務取締役 ソフトウェア事業部事業部長 兼 品質管理室 室長)

坂村教授が開発されたTRONを使うことによって成功した当社イーソルの事例をご紹介できることを嬉しく思います。 私が組込みソフトウェアの業界でキャリアをスタートさせたのは今から28年前のことです。当時若手だったカーネル開発者としての思い出深いプロジェクトの一つは、日本テキサス・インスツルメンツが設計したデジタルスチルカメラ用のSoC向けにµITRON準拠のリアルタイム・カーネルを開発したことです。このSoCは、ARM7TDMIを搭載した初期モデルの一つで、一般的なARMプロセッサIPとDSPを初めて搭載したものでした。我々のリアルタイムOSとドライバー・スタックは、このデジタルカメラの中核となる技術でした。このリアルタイムOSとドライバー・スタックは大ヒットとなり、世界中の多くのOEMで1億台以上のデバイスに導入されました。何よりも、これは坂村教授なしには不可能だったことです。

その10年後、ARMは初のシンメトリック・マルチ・プロセッシングが可能なプロセッサ、ARM11 MPCoreを開発しました。イーソルは、オープンソースのT-Kernelをベースに、SMPとAMPの両方でARM11 MPCoreをサポートする初の商用オペレーティング・システムを開発しました。これをベースに、当時のNECエレクトロニクスが車載カーナビ用のSoCを次々と開発しました。そして、イーソルのOSは、それらのすべてに対応していました。これもまた大成功となり、世界中の何百万台という車両に搭載されました。そして何よりも、これも坂村教授なしでは不可能だったことです。

現在、コンピュータに関連する技術はかつてないほど重要になっています。その一方で、日本の製造業は自動車産業だけでなく、他の産業も大きな課題に直面していることも事実です。これらの機器はソフトウェア技術により洗練されたインテリジェント・デバイスへと変貌を遂げる必要があります。

イーソルでは坂村教授から学んだことでこの難題を乗り越えられると信じています。このたびは改めておめでとうございました。

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IEEEマイルストーン受賞スピーチ

坂村 健

1. ご挨拶

“TRON Real-time Operating System Family, 1984”(以下、TRONリアルタイムOSファミリー)がIEEEマイルストーンに認定されたことを光栄に思います。

TRONリアルタイムOSファミリーを生み出したTRONプロジェクトは、40年目を迎えました。プロジェクト名のTRONは、The Real-time Operating system Nucleusの略です。その名のとおり、当時台頭しつつあった16ビットマイクロプロセッサ用のリアルタイムOSを作るプロジェクトとして始まりました。TRONリアルタイムOSファミリーは現在も利用されており、改良とメンテナンスが続けられています。

リアルタイムOSは小さくてコンパクトである必要があります。そういうわけで、本日のセレモニーも小さくてコンパクトなものになりました。

さて、本日、IEEEおよびIEEE History CommitteeがTRONリアルタイムOSファミリーをIEEEマイルストーンとして認定してくださったことに御礼申し上げます。このことは、TRONプロジェクトで同OSファミリーの開発やメンテナンスに携わってきた、現在および過去のすべてのメンバーにとって喜ばしい出来事です。

個人的には、今年の初めに、IEEEからIEEE Masaru Ibuka Consumer Technology Awardという名誉ある賞をいただきました。この40年間、TRONプロジェクトでリーダーシップを発揮してきたことが、このような形で表彰され、さらに今回IEEEマイルストーンにも認定されたことをたいへん嬉しく思っています。

2. 今回のマイルストーンの位置づけ

IEEEマイルストーンでは、昔から多くの業績を表彰してきましたが、内容が理解しやすいものもあります。たとえば、イーサネット、アップルIIコンピュータ、日本の浜松高等工業高校におけるテレビ研究、1901年の大西洋横断無線信号の送信などです。これらはわかりやすいマイルストーンの例になります。

その一方で、一般の人たちには理解しづらいマイルストーンもあります。たとえば、エンリコ・フェルミの半導体統計への大いなる貢献(1924-1926年)、ラマン効果(1928年)、セルラー通信用CDMAの開発(1989年)などです。我々のTRONリアルタイムOSファミリーのマイルストーンもこちらのカテゴリーに入ります。

一般の人にとっては、TRONリアルタイムOSファミリーがなぜ重要なのか、わからないかもしれませんが、実は世界中で広く使われているのです。PC用OSやスマートフォン用OSのような馴染みのあるOSとは異なりますが、TRONリアルタイムOSファミリーのリアルタイムOSは、目に見えない形で多くの機器に使われています。たとえば、自動車のエンジン制御、宇宙探査機や打ち上げロケット、家庭用電子機器などの装置で使用されています。

TRONリアルタイムOSファミリーの開発者や利用者は、自分たちが技術的な社会インフラを作っていることを認識していますが、それらは普通の人たちには見えません。

しかし、IEEEマイルストーンは、彼らのこれまでの業績を照らすスポットライトとなります。そして、IEEEマイルストーンに認定されたことは、彼らにとってたいへん励みになります。TRONプロジェクトのリーダーとして今回のマイルストーン認定に感謝しています。

TRONリアルタイムOSファミリーがなぜ作られたのかを知るための参考になると思いますので、このTRONリアルタイムOSファミリーを生み出したTRONプロジェクトについて最初に説明しましょう。

3. TRONプロジェクト

TRONとはThe Real-time Operating system Nucleusの略です。TRONプロジェクトは、当時台頭しつつあった16ビットマイクロプロセッサ用のリアルタイムOSを作るプロジェクトとして始まりました。1984年に始まり、40年近く活動を続けてきました。

今から40年前、マイクロプロセッサが家電製品や産業機器など多くの機器の制御に採用されました。それより前の1970年代には、4ビットのマイクロプロセッサ、インテル4004が登場していました。

当時の技術者たちは、マイクロプロセッサを使って「生活圏にあるモノ」をコントロールしようとしました。これがマイクロプロセッサを普及させる原動力となりました。当初マイクロプロセッサは一般的なコンピュータとしては使われませんでした。

マイクロプロセッサは非常に汎用的なデバイスです。そのため、特定のデバイスを制御するアプリケーション・ソフトウェアを作るというのが当時採られたアプローチでした。それ以前は、ハードウェア制御回路であるプログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)が使われていましたが、アプリケーション・ソフトウェアを追加できるマイクロプロセッサがPLCに取って代わったのです。

しかし、アプリケーションである制御ソフトをゼロから作るのは難しいことでした。

自動車、航空宇宙、家電、通信などの各分野において、アプリケーションを作ることの難しさに対処するために、基盤となるOSを利用することによって、アプリケーション・システム全体を作ることができることに技術者たちが次第に気づき始めました。その上、アプリケーションは異なるコントロール・アプリケーションごとに作成することもできるのです。

リアルタイムOS vs 一般的な情報処理OS

ここで、リアルタイムOSとデスクトップPCやサーバー上の一般的な情報処理用OSの違いについて触れておきたいと思います。

  1. 優先順位ベースのスケジューリングとラウンドロビンスケジューリングの比較
    産業用アプリケーションにはリアルタイムOSが必要です。リアルタイムOSの本質は、優先度ベースのスケジューリングです。これは、一般的な情報処理OSのラウンドロビンスケジューリングとは大きく異なるものです。
  2. リアルタイム制御に使用されるコンピュータのハードウェア資源の乏しさ
    一般的な情報処理用のサーバーやデスクトップPCは何ギガバイトものメモリーを搭載していますが、リアルタイム制御用のコンピュータは、メモリーやその他のハードウェア資源が非常に限られていることが多いです。電源も非常に限られています。いわゆる組込み用コンピュータの多くは、電池で長時間動作させる必要があります。
  3. 信頼性:シンプル・イズ・ビューティフル
    宇宙衛星でのソフトウェアの利用を考えるとき、そこではソフトウェアのバグを修正することが容易ではないことを理解しなければなりません。だからこそ、信頼性は高くなければなりませんし、コードのテストは原理的に簡単でなければなりません。だから、小さくてコンパクトなOSが必要なのです。

TRONリアルタイムOSファミリーの最初のOSとなるITRON仕様リアルタイムOSを設計した背景には、いま述べたような一般的な情報処理OSとの違いがあったわけです。なお、ITRONのIはIndustrial controlの略です。

NEC、日立製作所、富士通など各社が仕様に沿ったOSを作り、それらを搭載した製品が数多く存在しました。TRONリアルタイムOSの利用は急速に拡大しました。制御アプリケーションを設計するエンジニアは、このようなリアルタイムOSを必要としたのです。

ちょうどこの頃、IEEEはさまざまな形でTRONプロジェクトに協力してくれました。たとえば、「IEEE MICRO」誌の1987年4月号は、TRONプロジェクトをメインに取り上げた特集号でした(図1)。これはTRONプロジェクトの目指すゴールとこれまでの成果など、プロジェクトの知識を広める助けになりました。

4. 普及

私たちはTRONの技術を広めるためにシンポジウムを開催したのですが、Springer-Verlag社は、最初の数回のシンポジウムのプロシーディングス(会議録)を出版してくれました。その後、IEEE Computer Societyが技術スポンサーとなり、IEEE CS Pressを通じてプロシーディングスを出版してくれました。IEEE Computer Societyの協力に感謝申し上げます。

さらに、1997年には、µITRON3.0の仕様書と入門編をまとめた書籍がIEEE CS Pressから出版されました(図2)。当時は、技術の普及は印刷物を使って行われていました。IEEE CS Pressにより出版された仕様書は、TRONリアルタイムOSファミリーが世界のあらゆる場所で普及するための力になってくれました。講演で海外の都市を訪れた際にも、多くの大学の図書館でこの本を見かけました。

また、私は1999年から2001年まで「IEEE MICRO」誌の編集長を務めていたので、多くの人と交流することができ、多くの人たちにTRONプロジェクトを紹介することができました。

1図1 TRONプロジェクトを特集した「IEEE MICRO」誌
fig03図2 µITRON3.0の仕様書

3図3 TRONリアルタイムOSの利用例

5. 代表的な利用例

TRONリアルタイムOSファミリーのよく知られている使用例をいくつか紹介します。

  1. CASIO製デジタルカメラや携帯電話、ニコン製デジタルカメラ、サムスン製デジタルカメラなどの小型携帯機器
  2. 大規模電話交換機
  3. トヨタによる自動車でのエンジン制御
  4. 日本製の人工衛星とロケット発射機
  5. 半導体製造装置などの産業用制御
  6. どのようにして利用が広がったのか

この二十数年間は、インターネットのおかげで利用が広がっています。

図4は、TRONリアルタイムOSファミリーのソースコードをダウンロードした国と地域を示しています。プロジェクトの当初から、私たちはオープン・アーキテクチャの理念を採用しています。つまり、「オープン」なアプローチで、OSファミリーの仕様とソースコードを公開したのです。

産業界におけるこのオープンなアプローチが評価され、2001年に私は、GNUプロジェクトで有名なリチャード・ストールマン、Linuxで有名なリーナス・トーバルズとともに武田賞を受賞しました(図5)。ストールマンもトーバルズも一般的な情報処理OSに貢献しましたが、私は代わりに、広く使われているリアルタイムOSの開発に貢献したわけです。

7. マイクロプロセッサの進化

マイクロプロセッサは、4ビットCPUから8ビット、16ビット、32ビット、そして最終的には64ビットCPUへと進化してきました。
最近では、一つのチップの中にCPUとその他多くの周辺機器が内蔵されており、これらはシングルチップ・マイクロプロセッサとよばれています。これらのCPUチップは、インターネットに接続可能な機器の内部で使用されます。

このようなマイクロプロセッサの登場により、IoT(Internet of Things)がごく身近なものとして広く認識されるようになりました。IoTアプリケーションフレームワークによって、私たちの身の回りにある多くのモノがコンピュータネットワークであるインターネットに接続されます。

現在、TRONリアルタイムOSファミリーは、ネットワークに接続されるこのような機器にますます使用されています。たとえば、TRONリアルタイムOSファミリーは現在、ネットワーク対応の多機能レーザープリンタ、携帯電話内部のRFモジュールなど、多くの民生用電子機器に組み込まれています。

8. 地理的拡大

地理的に言えば、用途はアメリカや日本から韓国、中国、ベトナム、シンガポール、マレーシア、インドといった東南アジアの国々に移っています。これらの国では、現在、電子機器が製造されています。そのため、これらの国々で、TRONリアルタイムOSファミリーが研究され、使われるようになりました。各国の言語に翻訳された教科書もあります(図6)。

TRONプロジェクトの立場から、シンガポール、マレーシア、中国で、TRONリアルタイムOSファミリーを学び、現地の開発拠点の設立に協力したいと申し出てくれた組織・団体があることをたいへん嬉しく思っています。ここでもIEEEは、ある意味でTRONプロジェクトに貢献してくれています。

2018年、IEEE Standards Associationは、IEEE2050-2018 IEEE Standard for a Real-Time Operating System (RTOS) for Small-Scale Embedded SystemsをIEEE標準として採択しました。これは我々のµT-Kernel 2.0仕様に基づくものでした。

このIEEE標準としての採用はTRONリアルタイムOSファミリーに勢いを与え、さまざまな地域の人々がTRONリアルタイムOSファミリーを熱心に研究するようになりました。

4図4 TRONリアルタイムOSファミリーのソースコードをダウンロードした国と地域
5図5 武田賞の授賞式
6図6 各地の言語に翻訳されたT-Kernelの教科書

9. IoTエッジノードはスタンドアロンではない

IoTアプリケーションフレームワークでは、ノードはしばしばエッジノードとよばれます。これらのエッジノードは今日、各種クラウドサービスとの通信が必須です。

TRONリアルタイムOSファミリーは現在、図7のようなIoTエッジノードに使用されています。エッジノード向けの推奨プロトコルはIPv6プロトコルのサブセットである6LoWPANであり、TRONリアルタイムOSファミリー上で動作する6LoWPANスタックがあります。

まとめ

TRONプロジェクトは、営利企業、学術団体、政府研究機関などの賛助会員のおかげで成り立っています。

TRONリアルタイムOSファミリーは、多くの人を魅了するきらびやかな話題ではありません。しかし、IEEEマイルストーンの受賞は、その重要性を強調するのに役立ち、技術者のモラルや、若い世代をこのコンピューティングの専門分野に呼び込むのにもとても良いことです。

この栄誉を与えてくださったIEEEとIEEE History Committeeに感謝するとともに、長年にわたってTRONプロジェクトに協力してくださったすべての方々に御礼を申し上げます。また、マイルストーンの申請書を提出してくださった龍谷大学の長谷智弘名誉教授と私の事務所のスタッフの石川千秋氏にも感謝いたします。

審査にあたっては、白川功先生、福田敏男元IEEE会長をはじめとしたIEEE東京支部の皆様方のご指導、ご助言があったと聞いております。全員のお名前をここであげることはできませんが、お世話になった皆様全員に感謝申し上げます。

本日、TRONリアルタイムOSファミリーを認定するIEEEマイルストーンのプレートが授与されましたことを、TRONリアルタイムOSファミリーを開発した技術者を代表して、改めて厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

 
7図7 6LoWPANでIoT-AggregatorにつながるIoTエッジノード
 

 参考情報

IEEEについて

IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子学会:アイトリプルイー)は、人類の利益のために技術を進歩させることを目的とした世界最大の技術専門組織です。IEEEとIEEEメンバーは頻繁に引用される出版物、国際会議、標準規格(スタンダード)、および専門的・教育的活動を通じ、航空宇宙システム、コンピュータ、テレコミュニケーションから、バイオメディカル・エンジニアリング、電力、コンシューマ・エレクトロニクスに至るまで、幅広い分野で信頼されています。

IEEEマイルストーンについて

電気電子工学とコンピューティングプログラムにおけるIEEEマイルストーンは、IEEEに関連するあらゆる分野における重要な技術的業績を称えるものです。それはIEEE History Committeeのプログラムで、IEEE History Center を通じて運営されています。

IEEEマイルストーンは、ユニークな製品、サービス、重要な論文、特許に見られる人類の利益につながる技術革新と卓越性を評価するものです。

IEEEは、1984年の100周年記念式典に合わせて、IEEEが代表する専門職や技術を生んで育てた巨人の世紀 (Century of Giants)の功績を称えるために、1983年にMilestones Programを設立しました。

各マイルストーンは、IEEEに代表される技術分野において、25年以上前に誕生し、地域での広がり以上の影響を与えた重要な技術的業績を認定するものです。2023年10月までに、世界中で240以上のマイルストーンが承認され、贈呈されています。

TRONプロジェクトについて

TRONプロジェクトは、1984年に発足した産学協同のコンピュータ・アーキテクチャの開発プロジェクトです。坂村健、IEEE Life Fellow/IEEE Computer Society Golden Core Member、東京大学名誉教授、INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所長をプロジェクトリーダーとし、組込みシステム向けのリアルタイムOSとその開発環境整備からIoTネットワークまで、さまざまなコンピュータ分野の開発を進めています。

TRONプロジェクトの成果は、自動車のエンジン制御、デジタルカメラや携帯電話などの情報家電といった民生分野の製品から、工場内の機械制御といった産業分野まで、さまざまな分野の組込みシステムに世界中で幅広く利用されています。

TRON プロジェクトはオープン・アーキテクチャを標榜しプロジェクトの活動を行ってきました。また、国際標準化団体に積極的に技術仕様を標準案として提案し、基盤技術の国際標準化に貢献しています。

トロンフォーラムについて

トロンフォーラムは、TRONプロジェクトの推進のため2002年に設立されました。組込みシステムの開発環境を整備するT-Engineプロジェクトと、ucodeをはじめとするユビキタスIDセンターの運営を軸として、積極的な活動を展開してきました。

2015年5月には坂村会長が、ユビキタス・ネットワークやIoTの起源となったオープン・アーキテクチャTRONを提唱したことにより、アジアからただ一人、ビル・ゲイツ氏らとともにITU150周年賞を受賞しました。また、2023年1月には坂村会長が「消費者向け電化製品に使われる組込みコンピュータ用のオープンでフリーなOSの開発に果たしたリーダーシップ」に対して、IEEEからIEEE Masaru Ibuka Consumer Technology Awardを受賞するなど、その活動内容は世界的にも高い評価を得ています。TRONプロジェクトはオープン・アーキテクチャを標榜しプロジェクトの活動を行ってきました。また、国際標準化団体に積極的に技術仕様を標準案として提案し、基盤技術の国際標準化に貢献しています。

坂村 健(さかむら けん) プロフィール

1951年東京生まれ。

INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長・教授、工学博士、東京大学名誉教授。

1984年からオープンなコンピュータ・アーキテクチャTRONを構築。現在TRON RTOSはモバイル端末、家電製品、車のエンジン制御、宇宙機の制御など世界中で多数使われており、2018年、IoTのためのIEEE標準組込みOS IEEE 2050-2018として採用された。2023年「TRONリアルタイムOSファミリー」がIEEEマイルストーンとして認定された。さらに家具、住宅、ミュージアム、ビル、都市などへの広範囲なデザイン展開を行っている。

IEEEライフ・フェロー、ゴールデンコアメンバー。IEEE「MICRO誌」編集長(1998年~2002年)。

2015年には、ITU(国際電気通信連合)150周年賞(ITU150 Awards)を受賞。情報通信のイノベーション、促進、発展を通じて、世界中の人々の生活向上に多大な功績のあった世界の6人の中の一人として選ばれる。2023年 IEEE Masaru Ibuka Consumer Technology Award受賞。

2001年市村学術賞特別賞
2001年情報処理学会40周年記念論文賞
2001年経済産業大臣賞
2001年武田賞
2002年YRPユビキタス・ネットワーキング研究所 所長
2002年T-Engineフォーラム(現 トロンフォーラム)会長
2002年総務大臣賞
2003年紫綬褒章
2004年大川賞
2005年産学官連携功労者表彰内閣総理大臣賞
2006年日本学士院賞
2006年C&C賞
2015年国際電気通信連合(ITU)150周年記念賞
2017年東京大学名誉教授
2017年INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長・教授
2018年TRONがベースの組込みOS IEEE 2050-2018がIEEE 標準として成立
2023年IEEE Masaru Ibuka Consumer Technology Award 受賞
2023年TRONリアルタイムOSがIEEEマイルストーン認定
2023年環境芸術学会 学会大賞

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