トロンフォーラム

ITRONとは?

ITRONとは・・・

トロンプロジェクトでは、1984年のプロジェクト開始以来、適用分野に応じたOSの仕様を検討し、公開してきました。そして、組込み機器用のリアルタイムOSとしてITRON(アイトロン)仕様に基づくカーネルの仕様を策定・公開しています。この仕様は技術的背景や市場のニーズなどに基づいて、その都度見直しを行っています。カーネル仕様に重点を置いて標準化を行ってきたのは、小規模な組込みシステムでは、カーネルの機能のみが利用されるケースが多いためです。

最初のITRON仕様は、1987年にITRON1仕様という形でまとめられました。ITRON1仕様に従っていくつかのリアルタイムカーネルが開発・応用され、仕様の適用性の検証に重要な役割を果たしました。その後、小規模な8 ~ 16 ビットのMCUに適用するために機能を絞り込んだμITRON仕様(Ver. 2.0)、逆に大規模な32ビットのプロセッサに適用するためのITRON2仕様の検討を進め、共に1989年に仕様を公開しました。このうちμITRON 仕様は、極めて限られた計算能力とメモリ容量しか持たないMCU 上でも実用的な性能を発揮することができましたので、多くの種類のMCU 用に実装され、極めて多くの組込みシステムに応用されました。実際、組込みシステム向けの主要なMCU のほとんどすべてに、μITRON 仕様のカーネルが開発されているといっても過言ではありません。

このように、μITRON仕様が広範な分野に応用されるにしたがって、それぞれの機能の必要性や性能に対する要求がより正確にわかってきました。また、 MCUの適用分野が広がるに従って、μITRON 仕様カーネルを32 ビットMCU用に実装するという仕様設計時に想定していなかった適用例も出てきました。そこで、それまでのITRON仕様を再度見直し、8ビットから32 ビットまでの各規模のMCUに適用できるスケーラビリティを持った仕様を策定する作業を行った結果、1993年にμITRON3.0仕様を公開しました。

μITRON仕様はそれまで、ソフトウェアの移植性よりも、ハードウェアやプロセッサへの適応化を可能にし、実行時のオーバヘッドや使用メモリの削減を重視する「弱い標準化」の方針に基づいて標準化を行ってきました。「弱い標準化」の方針によりμITRON仕様は、8ビットから32ビットまでの広い範囲のプロセッサに適用可能なスケーラビリティを実現しました。ところが、ソフトウェア移植性の向上とスケーラビリティの実現は矛盾する面が多く、一つの仕様で両者を同時に実現することは困難でした。そこで1999年に公開したμITRON4.0仕様では、「スタンダードプロファイル」と呼ぶ標準的な機能セットとその仕様を厳格に定めるというアプローチを採用し、仕様全体としては「弱い標準化」の方針を維持しつつ、ソフトウェアの高い移植性を実現することを可能にしました。

その後、2002年にT-Engineプロジェクトが開始され、トロンプロジェクトにおける最先端リアルタイムOS の標準化活動の場は、次世代OSのT-Kernelシリーズに移りました。それにともない、μITRONからT-Kernelにスムーズに移行したいというニーズが出てきました。これに応える形で、2006年に公開したμITRON4.0仕様Ver.4.03では、μITRON3.0、 μITRON4.0、T-Kernel において同等の機能を持つサービスコールを規定した「ベーシックプロファイル」を設け、このプロファイル内で動作するミドルウェアやアプリケーションであれば、μITRON からT-Kernel への移植をより容易に行うことができるようにしました。

ITRONの歴史

ITRONの歴史

ITRON仕様に準拠したリアルタイムカーネル製品としては、トロンフォーラムで把握しているものだけをみても、約60 種類のプロセッサ用に37 種類の製品があります。米国のソフトウェアベンダがITRON 仕様カーネルを開発して、販売している例もあります。また、μITRON仕様カーネルは、規模が小さく比較的容易に実装することができるために、ユーザが自社内専用に開発しているケースも多く、製品化されているもの以外にも多くの実装例があります。また、フリーソフトウェアとして配付されている μITRON仕様カーネルも、複数種類あります。

このように多くのITRON仕様カーネルが実装されるのは、広い応用分野と極めて多くの応用事例があるためです。ITRON仕様カーネルが使用されている機器の例を表1-1に挙げます。また、従来トロン協会が実施してきたアンケート調査(2010年よりトロンフォーラムが実施)でも、ITRON仕様が特に民生機器の分野において広く使われていて、事実上の業界標準仕様となっていることがわかります。また、ITRON仕様カーネルを使っているケースの中で、自社製の ITRON 仕様カーネルを使用しているケースが多くあり、ITRON仕様が真にオープンな標準仕様となっていることがわかります。

表1-1 ITRON仕様カーネルの主な適用分野
AV機器、家電テレビ、ビデオ、DVDレコーダ、デジタルカメラ、セットトップボックス、オーディオ機器、電子レンジ、炊飯器、エアコン、洗濯機
個人用情報機器、娯楽/教育機器PDA、電子手帳、カーナビ、ゲーム機、電子楽器
パソコン周辺機器、OA機器プリンタ、スキャナ、ディスクドライブ、DVD ドライブ、コピー、FAX、ワープロ
通信機器ISDN電話機、携帯電話、PHS、ATMスイッチ、放送機器/設備、無線設備、人工衛星
運輸機器、工業制御/FA機器、その他自動車、プラント制御、工業用ロボット、エレベータ、自動販売機、医療用機器、業務用データ端末

リアルタイムカーネル仕様以外では、BTRON 仕様のファイルシステムと互換性のあるファイル管理機能を持つITRON/FILE仕様を公開しています。

このように、ITRONリアルタイムカーネル仕様は、多くのメーカが規模の異なるさまざまなプロセッサ用に実装を行い、その多くが製品化され、また広く応用されています。特にμITRON仕様カーネルは、今までメモリ容量や実行速度の制約によってRTOS が使用できなかったシングルチップのMCU への適用が進んでおり、μITRON仕様カーネルがこの分野における世界最初の標準リアルタイムカーネル仕様の地位を築きつつあるということがいえます。

トロンフォーラムでは、今後もITRON仕様のメインテナンスを継続していくことによって、世界中の産業界のニーズに応えてまいります。また、 ITRON仕様カーネルのユーザに対して、μT-KernelをはじめとするT-Kernelへの移行パスをご用意し、より一層組込みシステムの開発効率向上につなげることで、ユビキタス・コンピューティング社会の実現を目指してまいります。

ITRON仕様・関連資料
ITRON仕様準拠製品登録制度
ITRON FAQ

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