
審査員講評

坂村 健(審査員長)
東京大学名誉教授
IEEE Life Fellow / Golden Core Member, IEEE Computer Society
トロンフォーラム会長
IoTの急速な普及に伴い、組込みシステムとその中核となるリアルタイムOS の重要性が日々増している。そして、カーボンニュートラルを目指す現代社会においてはエネルギー効率の高い組込みシステムの役割が一層重要となってきている。
情報処理系の汎用OSは技術者も多く柔軟性も高いため、情報処理用OSを組込みシステムに利用しようという例を多々見るが、エネルギー効率だけでなくセキュリティ課題からも決して最適解とは言えない。IoTが普及すればするほど、エネルギー消費の累積は大きな問題となり、セキュリテイ課題解決も社会安定化にとっては重要だ。
このような背景から、組込み用リアルタイムOSの普及に拍車をかけるべく、今回、各マイコンメーカの協力を得て、最新のマイコンと世界標準の組込み用リアルタイムOSであるμT-Kernel 3.0を活用したプログラミングコンテストを開催した。多くの方々からコンテストへのエントリーが寄せられ、エントリー審査を経て選ばれた方々にはマイコンの評価ボードを提供し、プログラムの開発に取り組んでいただいた。
RTOSアプリケーション一般部門の優秀賞「人体の圧力値をリアルタイムで測定できる装置のプログラム」は、センサーに指を触れることで心拍変動を測定しストレスレベルを表示する人体のストレスチェッカー。作品の実用性の高さと、μT-Kernel 3 .0のマルチタスク・プログラムでセンサー制御を行い、かつ低消費電力を考慮した設計が高く評価された。
同じくRTOSアプリケーション学生部門の優秀賞に選ばれた「マイコンde協調型自動運転」は、複数のロボットカーを同時に走行させた衝突制御を実現している。サーバーとの無線通信、衝突回避の制御、ライントレース走行などの各機能をすべてμT-Kernel 3.0上で実行している点を高く評価した。
開発環境・開発ツール部門の優秀賞「NT-Shell・Cpp UTestを使用した簡易テスト環境」では、オープンソースのツールを活用し、μT-Kernel 3 .0のプログラムのテスト環境を構築。テスト環境の構築に留まらず、各種学習用のテストやAIによるテストの自動生成など、実用例まで考慮されている点が評価のポイントとなった。
これらの入賞作品は、いずれもμT-Kernel 3 .0を活用した入賞作品に相応しいものと考えられるが、リアルタイムOSの機能を最大限に活用し、リアルタイムOSを使ったからこそ実現できた作品であるかという点では、さらなる可能性が残されているように思われる。
本コンテストは第1回目の開催となるが、好評につき次回の開催も計画されている。今回のコンテストを契機として、技術開発に新たな挑戦と刺激がもたらされ、組込みシステム開発の新たな地平が切り拓かれることを期待している。

後藤 貴志
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社
C3 事業本部 マーケティング本部
バイスプレジデント
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社を代表して、参加者の皆さんに心から敬意を表します。
インフィニオンは、特に脱炭素化とデジタル化の分野で、イノベーションを推進することに注力しています。
次世代IoT市場、特にAI/ML, モーター制御、電力変換を求められるアプリケーションシステム向けに、マイコン、パワー、センサー、セキュリティ、ワイヤレスといった幅広い製品ポートフォリオを持ち、ソリューションを総合的に提供しています。
TRONリアルタイムOSを実装することにより、より高い次元での高性能化、効率化、低消費電力化を実現できると考えています。
テクノロジーの未来は皆さんのような才能ある人々の手にかかっていると信じており、皆さんの創造性と才能を披露するプラットフォームとしてこのコンテストをサポートできることを誇りに思います。
当コンテストは未来との懸け橋です。TRONプログラミングコンテストに参加し、皆さんが開発した革新的でユニークなアイデアやソリューションを目の当たりにすることができ、とてもうれしく思います。
特に、インフィニオンのマイコン製品を選択しコンテストにチャレンジされた皆さんの才能、粘り強さ、創造性、そして素晴らしいプレゼンには大変感銘を受けました。
今後様々な道に進まれることになると思いますが、今後とも是非、皆さんの可能性の限界を押し広げ続け、好奇心・チャレンジ精神を持ち続けて頂きたいと思います。
私たちは皆さんに大きな期待を寄せており、皆さんが日本のイノベーションと成長を推進してくれると確信しています。改めて、皆さんの功績を祝福したいと思います。
私たちはこのイベントに関われたことを誇りに思います。将来皆さんが開発した素晴らしいプロダクトをいつの日か市場で目にすることを楽しみにしています。

パオロ・オテリ
STマイクロエレクトロニクス株式会社
マイクロコントローラ・デジタルIC+RF 製品グループ
アジア パシフィック地区
バイスプレジデント
この度は、TRONプログラミングコンテストにご応募いただき、誠にありがとうございました。
初めてのコンテスト開催となりましたが、STマイクロエレクトロニクスのマイクロコントローラの製品開発ならびにサポート拡充に役立つ作品を多数ご応募いただきました。
特に「開発環境・開発ツール部門」で、ST のSTM32 マイコンを使用して応募いただいた「NT-Shell・CppUTestを使用した簡易テスト環境」については、小規模組み込みシステム用のシェルライブラリを作成し、GitHubでオープンソースとして公開していただきました。μT-Kernelの開発環境として、今後多くの方々に利用されることが期待されます。
また、その他の応募作品につきましても、マイコンや開発環境、μT-Kernelが高度に活用されており、甲乙つけがたいものでした。将来の革新的なアプリケーション開発のヒントとなるような作品が多数生まれたコンテストであったと考えています。
最後に、今回のご入賞された皆さま、本当におめでとうございます。そして多数の参加者の方々にも、この場をお借りして御礼申し上げたいと思います。
STは、多くの皆さまのシステム開発に、これまで以上に、STM32マイコンを活用していただくため、今後も製品開発ならびに開発環境・サポートの拡充に努めてまいります。

大嶋 浩司
NXPジャパン株式会社
マーケティング統括本部 本部長
TRONプログラミングコンテストにご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
NXPはマイコンメーカーとして、IoTやエッジAIなど次世代技術を支える製品開発に注力し、開発者が自由に挑戦できる環境作りを進めています。特にエッジAIは、リアルタイム処理、プライバシー保護、省エネといった面で大きな可能性を秘めており、今後の技術革新を牽引すると確信しています。
今回のコンテストでは、AI技術を活用した作品はありませんでしたが、限られたリソースを駆使して高度な処理を実現した作品や、独創的な視点で課題解決に取り組んだアイデアに感銘を受けました。
次回のコンテストでは、NXPの製品を活用したエッジAIを取り入れた作品にも出会えることを楽しみにしています。このコンテストが皆様の挑戦と成長を後押しし、新たなイノベーションを生み出す場となることを願っています。
今後とも、皆様のご活躍をNXP 一同応援しています。

服部 敬宙
ルネサス エレクトロニクス株式会社
エンベデッドプロセッシング第一事業部
シニアディレクター
第一回のTRONプログラミングコンテスト開催に相応しいマイコンとμT-Kernelを活用した多数の作品を審査する機会をいただき感謝いたします。
たくさんの素晴らしいアイディアをもとにTRONプログラミングコンテストに応募いただいた多数の方々、ありがとうございました。また、入賞された皆さま、おめでとうございます。
アプリケーションの分野では「人体の圧力値をリアルタイムで測定できる装置のプログラム」や「マイコンde協調型自動運転」はμT- Kernelの特長を活かした上に、オープンソースがGitHubにて公開されており、誰でも活用できる点も含めて高い評価になりました。
また、ルネサスエレクトロニクスのEK-RA8M1を活用した組込みマイコンのためのウインドウシステム「Comado」は汎用的なマイコンでのGUIのミドルウェアを実現しており、容易なグラフィカルアプリケーション開発に役立つものと考えます。他、実機開発を想定したテスト環境「NT-Shell・CppUTestを使用した簡易テスト環境」など完成度の高い作品ばかりでした。
ルネサスエレクトロニクスは今後もマイコンボードとμT-Kernelの組込みシステムの世界を味わっていただけるよう新製品およびその開発環境の提供に取り組むとともに、皆様をサポートし続けていけることを楽しみにしています。

松為 彰
トロンフォーラム T3/IoT WG 座長代理
パーソナルメディア株式会社 代表取締役
今回のプログラミングコンテストでは、予想以上にいろいろなアイデアやコンセプトを持った作品の応募があり、楽しみながら審査をさせていただくことができました。まずは、応募者の皆様にお礼を申し上げるとともに、皆様の努力に敬意を表したいと思います。
μT-KernelはOSですので、その応用の可能性は無限にあります。しかし、実際のアプリケーションを考えて、本当に動くものを作ろうとすると、アイデアだけではなく技術力も必要です。特にμT-Kernelの場合は、エッジノード用リアルタイムOSとして、省資源で軽いことが大きな特長になっています。そのため、使用可能なメモリ量やデバイスなどのハードウェアに大きな制約があり、Windowsパソコン上で動いているような巨大なプログラムをそのまま動かすことはできません。制約のある中で、μT-Kernelを使った軽いエッジノードという特長をうまく活かしたシステムを作っていくための、技術的なセンスが求められます。
応募作品を拝見すると、リアルタイムOSやμT-Kernelのこういった特性を正しく理解し、そのメリットを活用した作品が多いことに感心しました。特にmicro:bitを使った作品については、ボートのコンパクト性や電池駆動の携帯性を活かすという意味で、優れた着想の作品が多かったと思います。
当社はリアルタイムOSの教育にも力を入れており、「IoTエッジノード実践キット/micro:bit」といった学習用の教材を発売しておりますが、今回のような応募作品を拝見させていただくことで、われわれ自身が逆に応募者から教えられることも多くありました。ぜひ次回のコンテスト開催も実現し、今回以上の盛り上がりを期待したいと思います。
RTOSアプリケーション 一般部門
Jiabin WANG

湯澤 竜也
micro:bitをi2c「EEPROM+簡易ウェアレベリング、i/o-Expander」で拡張しています。
PLCのプログラミングで一般的なラダー(LD)形式ではなく、内蔵インタプリタによりインストラクション(IL)形式を登録・実行するため、汎用通信ソフトでASCII文字列を書き込めば、PCのみならずスマホやBTRON(確認中)でも操作可能です。
奥田 顕浩
環境の判別のための設定ファイルは容易に変更可能なため、仕事環境だけでなくリビングや寝室といった住環境などにも適用できます。また、測定値をGoogleスプレッドシートに送信できるため、傾向の分析にも応用できます。

RTOSアプリケーション 学生部門
同志社大学 ネットワーク情報システム研究室

李 きん佳
装置は二部で構成しており、その一は飲水量を感知できるスマートカップ、その二は水分摂取の状況を表示するスクリーンです。
水が充分に飲まれた場合に、スクリーンに動物や植物のキャラクターが元気そうに表示され、逆に水分摂取が不十分な時に、キャラクターが苦しそうな様子を示します。ユーザーはキャラクターの様子を確認することで、水分補給を忘れずに行えるようになります。

RTOSミドルウェア部門
久保寺 祐一
本ライブラリは、MQTTのSubscriber、Publisher、Broker機能をオープンソースのTCP/IPプロトコルスタックであるlwIPを用いて実装しています。これにより、μT-Kernel 3.0環境下でMQTTを用いた情報配信システムの構築が可能となります。応用例として、電子ペーパーモジュールを接続した開発ボードに対して配信と書き換えを行うシステムを開発し、省電力で動作するシステムを実現することができました。

本谷 茂
しかもどんなに重ね合わせを増やしてもメモリ消費は少ないままでスピードも遅くならないというμT-Kernelが想定する組み込みシステムととても相性のよい特長があります。
ウインドウは表現力が高い一方で、重なり合った部分を後で元に戻すために逃がしておくメモリが必要になり組み込みでは使いづらいところもありました。しかし近年ではマイコンの演算性能はAIに対応するものが現れるなど飛躍的に向上しており、メモリに逃がさずその都度リアルタイムに計算して描き直す方法のコストも低下しています。ならば演算重視で組み込み用の省メモリなウインドウをつくれないかというのが今回のアイデアです。

須藤 義明

開発環境・開発ツール部門
阿部 耕二
- 簡単・気軽に実機でテストできること
- 開発者がテストで不安が少なくなり自信が持てること
簡単にテストできることを実現するためにNT-Shellを使いました。シリアルコンソールからコマンドの入力、編集が簡単・気軽に行えます。
テストはテストフレームワークCppUTestを組込みました。CppUTestを使うことで以下を実現できました。
- CppUTestの記法でテストを書ける
- 任意のグループのみ、特定のテストのみテストというようにテストの実行に選択肢を持てる
実機でのテストを検討している方の何か参考になれば嬉しいです。

西田 雄亮
マイコンとコンピュータを接続し、コンピュータ上から専用のソフトウェアを用いることにより、任意のタイミングでμT-Kernelの内部状態が確認できるようになります。
なお、マイコンがコンピュータと通信できるようにするために、μT-Kernelのプログラムには簡単なmtdbgのコードを追加する必要があります。
