トロンフォーラム

IEEE MILESTONEーThe Pioneering TRON Intelligent House, 1989
  1. TRON電脳住宅がIEEEマイルストーンに認定
  2. TRON電脳住宅のあゆみ
  3. IEEEマイルストーン記念式典
  4. 参考情報

TRON電脳住宅がIEEEマイルストーンに認定

昨年のTRONリアルタイムOSファミリーに続き2年連続

トロンフォーラム

 

1989年に竣工された「TRON電脳住宅」(TRON Intelligent House)がIEEEマイルストーンとして認定された。2023年5月にはTRONリアルタイムOSファミリーが認定されており注1)、2年連続の快挙となった。2024年11月28日に銘板贈呈式が東京大学で開催された。

認定理由

マイルストーンに認定されるには、公開から少なくとも25年以上経過し、社会や産業の発展に大きく貢献をした歴史的な実績が求められる。TRON電脳住宅は、35年近く遡ること1989年12月に竣工された。また認定には広く情報が公開されている必要があるが、その点についても、日本はもちろんのこと、海外でも米Popular Science誌やIEEE Micro誌を含む複数の雑誌、学会誌に掲載され、BBC、CNNなどでも報道された。1990年4月から公開され、約1年間で延べ1万人が見学。スマートハウスの起源として、今でもこのTRON電脳住宅が言及されることが多い。

「スマートハウス」という言葉が使われ出したのは1980年代であるが、ヨーロッパや米国でも類似のプロジェクトがいくつか生まれた。しかし、それらは単発の研究開発にとどまり本格的に商品化するところまでは行かなかったようだ。一方、TRON電脳住宅では、集まった日本の住宅関連メーカーが将来の商品化につながる研究開発を行い、TRON電脳住宅で実装した後、個々に商品化も行った。

実装されその後一般化した技術には、ウォシュレット/ヘルスケアモニター、ヘルスケアデータの送信/シーン照明/人感足元灯/一括警報設定/DSP音場エミュレーション/植物の自動灌水/透明度を変えられる液晶ガラス窓/屋内のセンサーネットワーク(環境、温度)など多岐にわたり、建築界・家電業界に大きな刺激を与えることとなった。

「TRON電脳住宅」は役目を終え取り壊されたが、その後も、「トヨタ夢の住宅PAPI」(2004年)、「台湾u-home」(2010年)、「東京大学 ダイワユビキタス学術研究館」(2014年)、「東洋大学 INIAD HUB-1」(2017年)、「Open Smart URスタートアップモデル住戸」(2019年)、「Open Smart UR生活モニタリング住戸」(2022年)などに発展していった。ほかにも多くの建築物で成果が使われ、建築業界の発展に寄与してきた。

図1 TRON電脳住宅
図2 HFDS(超機能分散システム: Highly Functionally Distributed System)

TRON電脳住宅の先進性

認定された業績の正式な名称は「The Pioneering TRON Intelligent House, 1989」である。認定理由とその日本語訳は以下となる。

The first TRON Intelligent House was based on the concept of a Highly Functionally Distributed System (HFDS) as proposed in 1987. Built in Tokyo in 1989 using about 1,000 networked computers to implement the Internet of Things (IoT), its advanced human-machine interface (HMI) provided 'ubiquitous computing' before that term was coined in 1991. Feedback by TRON's residents helped mature the HFDS design, showing how to live in an IoT environment.

最初のTRON電脳住宅は、1987年に提案した「超機能分散システム」(HFDS:Highly Functionally Distributed System)の概念に基づいて建てられた。1989年に東京で完成したこの住宅では、約1,000台のコンピュータがネットワークにつながれ、今でいう「モノのインターネット(IoT)」を実現した。また、先進的なヒューマンマシンインタフェース(Human Machine Interface)を備え、「ユビキタスコンピューティング」という言葉が生まれる1991年より前にその概念を実現した。TRON電脳住宅に住む人々からの意見を取り入れることで、HFDSの設計はさらに改良され、IoT環境での暮らし方を提案してきた。

TRONプロジェクトは、「超機能分散システム」(HFDS:Highly Functionally Distributed System)の基本概念を1987年に提唱注2)。我々の日常生活を取り巻く環境の中にインテリジェントオブジェクトというセンサー、コンピュータ、アクチュエータなどからなる高度化された部品を多数配置し、それらが相互に通信しながら協調動作することにより、人間の活動を多様な側面から支援する環境を提案し、その実装研究開発を行ってきた。インテリジェントオブジェクトは今でいうIoTエッジノードであり、住宅でいえば、家電製品、住宅設備機器だけでなく、家具、壁、天井などもインテリジェントオブジェクト化された。

HFDSは、1991年にいわれるようになった「ユビキタスコンピューティング環境」注3)のことであり、現在の「IoT環境」──インテリジェントオブジェクトが多数のネットワークで接続され、さらにそれが外部コンピュータにも接続され連携動作するというアーキテクチャだ。世界初の商用インターネットサービスが生まれたのは1990年、日本では1993年という時代背景の中、1989年の技術で現代のIoT環境を先取りしたのがTRON電脳住宅。大量の組込みマイコンによるエッジノードのスマート化とネットワーク接続によるIoT環境を、地下のコンピュータ室に何台ものワークステーションを設置し、大量の配線で機器同士をつなげてエミュレートしたのだ。また、ISDN接続により、家庭内ヘルスケア機器から病院コンピュータへの診断データ送信なども行った。

ネットワーク環境の実用化を前提に、ユビキタスコンピューティング環境(=HFDS)の実現に必要な要素技術の研究開発を進め、TRON電脳住宅は実際に人が住み、住人からのフィードバックを反映させながらの実験も繰り返した。こうしたことが結果的に先駆的な「スマート住宅」だと評価された。さらにその後に業界に与えた影響も評価され、マイルストーン認定に至った。

TRON電脳住宅のインテリアはコンピュータを前面に出さないウェルデザインにこだわった。また住人が住宅機器を操作するシーンでは、コンピュータの専門家ではない人にとっても使いやすいものであるよう心がけた。そのためのヒューマンマシンインタフェース(HMI)の設計を重視し、デザインガイドラインを策定した注4)。その後、この規格はIEC(国際電気標準会議)の技術レポートで公表された注5)

おわりに

TRONプロジェクトは、スタートの1984年から、将来の応用を見据えたうえでトップダウンに要求を定め、それを実現するための基礎技術、OSやマイクロチップアーキテクチャを研究開発するというプロセスで進められてきた。TRON電脳住宅は、そのプロセスに沿って進められた重要な未来応用研究の一つであった。

今回、比較的短期間でスムーズに認定を受けられた注6)のは、TRON電脳住宅のバックボーンとなるHFDSビジョンの先見性と、その影響力を示す多数の資料が残っていたからである。TRONプロジェクト40周年を迎える節目の年に名誉あるマイルストーン認定を受けられたのは大きな喜びである。

今回の認定にあたって、IEEE東京チャプター関係者、IEEE History Committeeのアドボケートとしてご尽力いただいた長谷智弘龍谷大学名誉教授、またレビューをしていただいた多くの方々にこの場を借りて感謝申し上げたい。

図3 地下のコンピュータルームと大量の配線


コラム IEEEマイルストーン
IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子学会)注7)は、人類の利益のために技術を進歩させることを目的とした世界最大の技術専門組織である。IEEEとIEEEメンバーは頻繁に引用される出版物、国際会議、標準規格、および専門的・教育的活動を通じ、航空宇宙システム、コンピュータ、テレコミュニケーションから、バイオメディカル・エンジニアリング、電力、コンシューマー・エレクトロニクスに至るまで、幅広い分野で信頼されている。

IEEEマイルストーンは、IEEEの広範な活動分野である電気・電子の分野の画期的なイノベーションの中で、公開から少なくとも25年以上経過し、社会や産業の発展に多大な貢献をした歴史的業績を認定する制度である注8)。ユニークな製品、サービス、重要な論文、特許に見られる人類の利益につながる技術革新と卓越性を評価する。

現在までに、世界中で260以上のマイルストーンが承認されている。古いものには1700年代に凧を使って雷を調べたベンジャミン・フランクリンがイギリスの王立協会で発表した手紙もマイルストーンに認定されている。第二次大戦後にはトランジスタの発明と量産、レーダーの発明もある。IT関連ではIntel 4004、イーサネット、Xerox Alto、Apple I/II、Macintoshなどがある。電力発電関連や衛星通信関連などIEEEの扱う分野の広さを感じさせるマイルストーンも多い注9)

日本ではQRコード、富士山レーダー、新幹線をはじめとした40以上の業績が認定されている。日本の電気電子分野の過去100年の工業力、特に戦後の電気、電子産業の力を示しているといえる注10)

No名 称贈呈式開催日
1世界に先駆けたトロン電脳住宅、1989年2024年11月28日
2レーザーイオン化質量分析計「LAMS-50K」、1988年2024年11月15日
3「世界初の量産ハイブリッドカー」トヨタ プリウス(Toyota Prius)、1997年2024年10月30日
4積層セラミックコンデンサ(Ni-MLCC)、1982年2024年3月8日
5TRONリアルタイムOSファミリー、1984年2023年10月14日
6垂直磁気記録、1977年2023年10月9日
7QR(Quick Response)Code、19942022年9月26日
8インバータエアコン、1980-1981年2021年3月16日
9プッシュプル締結方式を採用したフィジカルコンタクト(PC)接続による光ファイバコネクタ、1986年2021年3月5日
10世界初の商用信号処理プロセッサ、1980年2020年12月15日
11大規模遺留指紋照合システム、1982年2020年12月15日
12高電子移動度トランジスタHEMT、1979年2019年12月18日
13屋外用カラー大型表示装置、1980年2018年3月8日
14アンテナにおける自己補対の原理と虫明の関係式の発見2017年7月27日
15野辺山45m電波望遠鏡2017年6月14日
16温度無依存水晶振動子2017年3月6日
17地図型自動車用ナビゲーションシステム2017年3月2日
18蹴上発電所2016年9月12日
19ハイビジョン2016年5月11日
20緊急警報放送2016年5月11日
21高品質光ファイバの量産製造技術「VAD法」2015年5月21日
22MUレーダー(中層超高層大気観測用大型レーダー)2015年5月13日
23TPC-1太平洋横断ケーブルシステム2014年11月12日
2420インチ光電子増倍管2014年11月5日
25電力用酸化亜鉛形ギャップレス避雷器(MOSA)2014年8月18日
26テレビ用14インチTFT液晶ディスプレイ2014年6月10日
27高圧縮音声符号化のための線スペクトル対2014年5月22日
28日本の一次・二次電池産業の誕生と成長2014年4月12日
29東芝T1100、ラップトップPC開発のパイオニア的な貢献2013年10月29日
30G3ファクシミリの国際標準化2012年4月5日
31電界放出型電子顕微鏡2012年1月31日
32直接衛星放送サービス2011年11月18日
33太陽電池の商業化および産業化2010年4月9日
34黒部川第四発電所2010年4月9日
35太平洋横断衛星TV中継2009年11月23日
36高柳テレビジョン2009年11月12日
37フェライト2009年10月13日
38依佐美送信所2009年5月19日
39日本語ワードプロセッサー2008年11月4日
40鉄道用自動改札システム2007年11月27日
41世界標準家庭用ビデオVHSの開発2006年10月11日
42電卓の先駆開発2005年12月1日
43電子式水晶腕時計2004年11月25日
44東海道新幹線2000年7月13日
45富士山レーダー2000年3月6日
46指向性短波アンテナ1995年6月17日

注1) https://www.tron.org/ja/ieee-milestone/
注2) “Ken Sakamura: The Objectives of TRON Project: Open-Architecture Computer Systems”, Proceedings of the Third TRON Project Symposium, Springer Verlag, pp.3-16., 1987.
https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-4-431-68069-7_1
注3) Mark Weiser: The Computer for the 21st Century, Scientific American, September 1991, Vol 265, Issue 3.
https://dl.acm.org/doi/10.1145/329124.329126
注4) 『トロン電脳生活ヒューマンインタフェース標準ハンドブック』, パーソナルメディア, 1993年

注5) “Guidelines for the user interface in multimedia equipment for general purpose use”, Technical Report IEC TR 61997, 2001.
https://webstore.iec.ch/en/publication/6269
注6) 2024年3月29日:マイルストーン認定申請書類提出。5月1日:IEEEマイルストーンを管理するHistory Committeeで、申請をIEEEのBoard of Directors(BoD)に推薦する旨の投票が通過。6月24日:BoD会議で最終認定され、正式通知を受領。
注7) https://jp.ieee.org/https://www.ieee.org/
注8) https://ieeemilestones.ethw.org/
注9) https://ethw.org/Milestones:List_of_IEEE_Milestoneshttps://ethw.org/Milestones:List_of_Milestones
注10) https://ieee-jp.org/activity/jchc/milestone_jusho.html

TRON電脳住宅のあゆみ

坂村 健

TRONプロジェクトは1984年の発足当時から、あらゆるものの中にコンピュータが入りインテリジェント化し、それらがネットワークでつながれて相互に協調動作しながら一つの目的を達成する未来を目指した。この概念をHFDS(Highly Functionally Distributed System:超機能分散システム)と名づけて研究を進めてきた。これはのちにユビキタスコンピューティングやIoT(Internet of Things)とよばれるようになった。

2024年のIEEEマイルストーン認定では、TRON電脳住宅のその取り組みとそれに続き建てられた建築群が、業界に大きく貢献したことが評価された。本稿では、初代TRON電脳住宅とその後のあゆみを振り返る。

1989 TRON電脳住宅

1989年12月に東京・六本木に竣工したTRON電脳住宅(1990年4月より公開)は、初めてHFDSの考え方に基づいて具体化された建築物である。

TRON電脳住宅では住宅を構成する多数の部品の中にコンピュータ、センサー、アクチュエータが入りインテリジェント化され、それらが相互にネットワークで結ばれている。コンピュータが内蔵されることにより外界の状況に適した知的な対応を行える「もの」となるため、TRONプロジェクトではこのような部品をインテリジェントオブジェクトとよんでいる。

インテリジェントオブジェクトがネットワーク化されることにより、さまざまな協調動作が可能となる。たとえば屋根に仕組まれた気象センサーにより住宅の外の温度や湿度や風の流れなどがわかり、それが窓のシステムに連絡されることにより、居住者に快適な環境になるように窓が自動的に開いて風を通すといったことが可能になる。雨が降ってくれば窓が自動的に閉まり、さらに空調装置に連絡が行き室内の環境調整を引き継ぐ。

二つのTRON電脳住宅が隣り合っていると、たとえば窓を開けた部屋の中でピアノを弾こうとした場合、そのピアノは「ピアノを弾く」という情報を隣の家に伝える。そうすると隣の家は、自分の家で誰か寝ている人がいないかどうかを確かめる。寝ている人がいればその情報がピアノのある部屋の窓に伝えられ、窓を閉める必要があることを知る。さらに「窓を閉めるので室温を調整する必要がある」と空調装置に連絡される。それらが完了すると、ピアノに「音を出してもよい」という知らせが来る。こうした一連の動作をリアルタイムでわずか数秒のうちに実現するのがHFDSのイメージだ。

TRON電脳住宅では、住宅を構成するあらゆるシステム──キッチン、トイレ、バスなどにコンピュータが組み込まれインテリジェント化され、それらがネットワークで結ばれ連携動作することにより住人に利便性を提供する。

TRONプロジェクトは当初より21世紀の電脳都市のインフラ(社会基盤)を作るということを目標としていた。そのため、人間とインフラのつきあいかたのルールを一定化させることも考え、たとえば、この住宅におけるすべてのスイッチはTRON作法により統一的に操作できるようにした。

サンウエーブの協力により開発した電脳キッチンを見てみよう。料理のレシピがレーザーディスクに記録されており、そのレシピどおりに調味料をミリグラム単位で手順に合わせて出し、またその手順に合わせてレンジのスイッチを入れて温度や時間を調整する。電脳キッチンには記録モードと再現モードがあり、記録モードでは料理を作ると何分間レンジを使ったか、どのくらい調味料を入れたかがすべて計測され記録される。再現モードではその逆に、記録された料理の手順、調味料の分量、加熱のタイミングなどを再現できる。

ほかにも、当時ウォシュレットを開発中だったTOTOの協力によりコンピュータ化したトイレシステムを開発した。尿の自動分析と血圧計が付いており、NTTのISDN通信回線を使って病院にヘルスケアモニターのデータが送られるしくみを用意し、健康管理に役立てるなどの先進的実験を行った。

TRON電脳住宅の建築には竹中工務店の子会社であった日本ホームズが協力したが、そのほかすべての開発は、民間企業との共同研究やドネーションによって実現することができた。

「Popular Science」誌の表紙になったり、BBCで放送されたりするなど、外国のメディアでもたくさん取り上げられ、世界的にも注目を浴びることとなった。

01図1 電脳住宅南側全景。屋内外の環境/気象センサー群で温度・湿度・気圧・ 風速・風向・雨・照度などが常時測定され、半屋外空間を含む各部の窓はその測定結果に合わせてすべてコンピュータ制御で自動開閉する

02図2 屋外の気象センサー群と室内天井の熱感センサー

03図3 食堂天井のセンサー群。上から温湿度センサー・風量センサー・人体感知センサー・TRONマークをイメージしたオリジナルランプ

04図4 半屋外空間内は人工土壌に花・木・ 観葉植物などが植えられた庭園になっており、コンピュータ制御の水耕栽培システムがこれを管理する。手前はガーデンキッチンユニット

05図5 スイッチはTRON作法に従っており統一的に操作できる

06図6 電脳キッチン。調理台の上にある画面がコンピュータ制御調理支援システムの画面。調理指示映像の表示とタッチスイッチを兼ねる。手前にも同様のディスプレイがある

07図7 健康管理ができるトイレシステム

08図8 TRON電脳住宅を特集した1990年の「Popular Science」9月号の表紙と記事

2004 トヨタ夢の住宅PAPI

トヨタ側から車開発で培った先端技術を住宅分野に活かしたいというオファーがあり、20 05年の万博「愛・地球博」(愛知県長久手市)での披露に向けて東京大学坂村研究室とトヨタの共同研究が始まった。そして、2004年に完成したのが未来住宅「トヨタ夢の住宅PAPI」である。

建築面積は408㎡。ラーメン構造ユニットを素直に活かした総2階のシンプルな箱型建築で、全面光触媒コーティングによりメンテナンスフリー。電脳住宅では環境問題への対応に課題が残っていたが、減築も容易で、アルミとガラスでできた外壁はすべてリサイクル可能と、リサイクルやユニット単位でのリユースまでさまざまなアイデアが盛り込まれていた。

インターネットをはじめとしたICT技術もふんだんに使われている。当時はまだスマートフォンはなかったが、その先駆けになるような端末——ユビキタス・コミュニケータ(UC)も坂村研究室とYRPユビキタス・ネットワーキング研究所で開発。タッチパネルをとおしていつでもどこでも住宅の状況を知ったり制御したりできるようにしたネット端末も用意した。1989年の初代電脳住宅では、サン・マイクロシステムズのワークステーションを10数台設置したコンピュータルームが地下に隠してあったが、同じことが壁裏に分散配置された弁当箱大のユニットで可能になった。配線についても、1989年には住宅内のセンサーやエフェクタをつなぐスター結合の配線で、コンピュータルームの天井一面が埋まっていたのが、2004年にはイーサーネットケーブルによるデイジーチェーン接続で、電源配線が少し増えただけのイメージだ。1989年には実現できなかったコンセプトが十分実用的に使えるようになったといえるだろう。

ハイブリッド自動車から住宅に電力を供給するアイデア——非常時には車が発電機となり住宅に電力供給するアイデアもここで試されたのが最初である。これも今では実用化されている。そのほかにも、スマートフォンや音声認識による家庭設備制御、リストバンド型無線センサーによる健康管理、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)、家庭用燃料電池、色素増感型太陽電池、光触媒セルフクリーニング住宅外壁、住宅用LED照明、住人の移動についていくBGM、屋内位置特定のための無線マーカー利用など、電脳住宅やPAPIで使われた技術は徐々に実用化され、現在の日常生活に浸透している。

表1 TRON電脳住宅研究会会員各社と分担(順不同、企業名・役職名は当時)

トータルデザイン・電脳機能設計

東京大学理学部助教授 坂村 健/坂村研究室

本体の設計・施工

日本ホームズ株式会社

設備全般の制御・情報設備

株式会社竹中工務店/永楽電気株式会社

キッチン設備

サンウエーブ工業株式会社/東京電力株式会社

水まわり設備

東陶機器株式会社

空調設備

株式会社大気社/三菱電機株式会社

照明設備

ヤマギワ株式会社

収納設備

元田電子工業株式会社

音響設備

ヤマハ株式会社

通信情報設備

日本航空株式会社/日本電信電話株式会社

植栽管理設備

第一園芸株式会社

電動開閉窓・トップライト

三協アルミニウム工業株式会社

各種ガラス

日本板硝子株式会社

屋根材・屋根工事

日新製鋼株式会社

家具・生活用品

株式会社西武百貨店

図9 PAPI外観

図10 T-Engineを利用した来客者受付端末を玄関に設置

図11 館内の設備はUCから統合的にコントロールできる

図12 センサーや部屋認識用のucodeマーカー、空調吹き出し、スポットライトなどは、天井外周沿いのスリットの中に集中

図13 ダイニングキッチンの情報ディスプレイで住宅の状態やニュースなどがひと目でわかる

図14 冷蔵庫の中のものにはRFIDが貼られ管理される。残り物を使ったレシピを検索し情報ディスプレイに表示させることもできる

図15 ガレージのハイブリッドカーと電気自動車。電気自動車への給電用のステーションを使い、非常時にはハイブリッドカーで発電した電気を住宅に逆供給できる

2010 台湾u-home

未来住宅のショールームとして2010年に台湾に建築されたのが東京大学坂村研究室と台湾土地開発の共同プロジェクト「u-home」である。それまでの二つの電脳住宅で実践してきたアイデアを実用的なコストで提供することに重点が置かれた。u-homeは台湾土地開発のモデルルームとなっていて、今後このコンセプトデザインと技術を大型マンションなどに適用展開していくことを目的としていた。電脳住宅をはじめとするインテリジェント住宅は未来住宅というイメージで造られてきたが、ユビキタスコンピューティングの時代となり、手の届く未来となった。

ショールームエリアは約200㎡、u-homeは約350㎡(通路、オフィス、プレゼンテーションルームを除く)。延床面積では駐車場やプールのあるPAPIよりは小さいが、住宅としてはかなり広い。リビング、ダイニング、主寝室、客室、バー&AVルーム、キッチン、パントリー、ランドリー、バスルーム二つという部屋構成となっている。台湾でもこの広さが市内にあれば豪邸で、日本でのいわゆる億ションに相当する。

デザイントーンは従来の電脳住宅からの天然素材、シンプル、シンメトリというジャパニーズモダンの語法に則っているが、カーテンに濃い赤を使うなど、台湾という土地柄も考慮した。置き家具のほとんどを新たにデザインし、台湾の工房で製作したので、それぞれの部屋にフィットし、使い心地の良いものになっている。エントランスホールやリビング、ダイニングに置かれた家具は、中国やチベットのアンティークだ。

u-homeの狙いは、最新のユビキタスコンピューティング技術を駆使した快適性とエコロジーを追求した住宅である。すなわち、家の状況、人の状況をu-homeが感知し快適性とエコロジーさを最大限高めるよう自動コントロールする住宅である。エコロジーの中には省エネルギーということも含み、状況によっては快適性とエコロジーさは相反する場合もあるが、そこをうまく調整するしくみを備えた。

両側が植栽の緑に囲まれたエントランスを進み、玄関の自動扉が開くと正面一面が緑の壁になっている。これはサントリーの「ミドリエ」という壁面緑化システムである。小さな植木鉢サイズのポッドに植物が植えられたものが縦横メッシュ状に壁にはめ込まれ、コンピュータ制御により養分と水が自動的に与えられる。エントランスホールのほか、主寝室と客室の壁面にも「ミドリエ」が配されている。

u-homeには場所を示すucodeを発するマーカーと、人を検知するセンサーがあらゆるところに配置されている。センサーが人を感知すると照明が自動的につき、人がいなくなると無駄な照明は積極的に消していく。時刻や屋外の明るさにより(モデルルームは地下にあるので仮想的に)照明の明るさやカーテンとの連動なども行った。BGMやBGVが設定されていれば、それらも連動する。自分でコントロールしたい場合は、ユビキタス・コミュニケータ(UC)を使う。UCは場所ucodeを認識して、今いる部屋向けのリモコンになる。壁にもタッチパネルスイッチが配してあり、UCと同様その部屋のコントロールを行うことができる。タッチパネルには温度や照度センサーが内蔵されており、環境のモニタリングをしている。センシングした情報を使い、現在の状況に最適な制御を行っていく。

人感センサーからの情報や、照明、電動カーテン、玄関の電気錠、BGM、AV機器などの制御は、µT-Engineアプライアンスによるローカルコントローラによって行われる。また、来客情報やエネルギー、家全体に関わる情報はハウスサーバーに集められ、ハウスモニターの状況表示や、全体制御のパラメータとして利用された。

u-homeのガジェットとして、主寝室の洗面に立つと大きな鏡に電光掲示板のように情報表示が現れる。各地の天気予報、リアルタイムのニュース、家族のメッセージ、今日のスケジュールといったものだ。天気予報やニュースは、インターネットのサイトから自動的に抽出したリアルタイムの情報である。家族のメッセージとスケジュールは、利用者のスマートフォン、タブレット、PCなどとシンクロする。

u-homeの勝手口には宅配ボックスが設置されている。信頼のおける宅配業者やクリーニング店と契約をし、配達人はセキュリティチップの入ったeTRONカードで管理されるので、安全に荷物の受け渡しができる。セキュリティ用のカメラは屋外屋内に設置してあり、家を空けているときにも外部から画像をチェックできる。またセンシング機能により不審な人の動きを自動記録し、防犯に役立てることができる。インターホンも同様のしくみで不在時の来訪者を自動記録し、帰宅後確認することができる。

安全に快適に暮らせるようにするため、外壁はパナソニックの光触媒外壁材を採用した。これは太陽光により汚れを分解し、雨水で汚れが簡単に落ちるメンテナンスフリー外壁である。内装の塗料には竹炭を配合した竹炭漆という塗料を使っており、有害物質の吸着、調湿の効果がある。

主寝室の浴室は、大型バス、多機能シャワー、サウナ、水風呂が完備し、BGMも流れる。疲れを癒しリフレッシュさせることを重要視した設計とした。大型スクリーンを備えたAVルーム、バーが作られている。UCをカウンターに置くと、カクテルのレシピを出してくれたりする。

図16 自動給水緑化壁を多用した屋内

図17 UCで室内をコントロール

図18 壁のタッチパネル

図19 宅配ボックス

図20 主寝室

22図21 AVルーム

2014 東京大学 ダイワユビキタス学術研究館

2014年までに我々を取り巻く情報通信環境は飛躍的に変化した。2007年にiPhoneが登場し、以後スマートフォンが爆発的に普及。2009年にはクラウドのビッグデータプラットフォームのサービスが開始されビッグデータ処理が容易に利用できるようになった。さらに、2011年には家庭内の設備用無線ネットワークとして組込み向け低消費電力無線IPv6ネットワーク規格の6LoWPANがRFC6282として実用になった。TRONプロジェクトでも、ネットワーク対応組込みシステムとして2011年にT-Kernel 2.0(T2)をリリース。2013年にはさらに小規模のセンサーノードなどに適したµT2がリリースされ、ネットワーク親和性の高い組込みシステム開発が容易になった。進歩したビッグデータ処理技術と一般化したクラウドコンピューティング基盤により、ユビキタス環境実現の基板技術が揃ったといえるだろう。

2014年5月に組込みのオープン化というコンセプトの研究のためのプラットフォームとして東京大学に作られたのが、ダイワユビキタス学術研究館である。坂村がセンター長を務めていたユビキタス情報社会研究基盤センターの研究棟として、大和ハウス工業株式会社からの寄付により建築された。外観の建築デザインは建築家の隈研吾氏が手がけている。

建物自身がTRONの技術を結集したインテリジェントビルディングで、主要な設備機器や環境制御機器はネットワークにつながれ、オープンなAPIで情報読み取りと制御指示が可能な「プログラマブル建築」となっている。音声認識で設備機器を制御したり、室内カメラの画像認識よりジェスチャーで制御したり——さまざまな技術をすぐに実際の居住環境で試せるようにし、ユビキタス研究のための大きな力となった。

「ダイワユビキタス学術研究館API」として、警報、屋外センサー、屋内センサー、照明、空調、エレベーター、電力消費、位置認識という8系統のAPI群が提供されている。位置認識は、建物の入口、各部屋のドア、エレベーターホールに設置されたucode BLEマーカー(ucodeをスマートフォンが読み取れるBluetooth Low Energy仕様の電波で1秒に3回ずつ発信する)を受信することで、受信者の位置を决定できるAPIだ。また、Wi-FiアクセスポイントもWi-Fi測位に適した箇所に設置されており、そのシグネチャによる位置認識も利用できる。さらに、回路・コンセントレベルの電源個別管理、電気錠、監視カメラ画像、ホールのプレゼンテーション機器のアクセスAPIなど、API自体が研究開発に応じて随時追加可能な構造になっている。こうした多様な技術をすぐに導入できるように、天井板を張らずに、センサーやマーカーやカメラなどを配線ダクトに固定することで機器を容易に追加設置できる建物構造とした。

環境制御は個人のタブレットやスマートフォンから行うので壁にスイッチがなく、入室するだけで自動的に照明と空調が作動し、それらの調整もアプリから行う。人感センサーと連動して、スマートフォンの退出を感知しなおかつ部屋に人が残っていなければ、照明と空調を切るようになっている。

ダイワユビキタス学術研究館は実験環境であるが、このようなプログラマブルな建築環境を世に出すには、APIをオープン化した際のセキュリティ不安を取り除く必要がある。そこでダイワユビキタス学術研究館では、状況によるアクセスコントロール基盤の研究と確立を大きな目的にした。「その時、その場、その人」という状況は位置認識プラットフォームや各種のセンサーからAPIで読み取り、利用者のスマートフォンのアプリIDと組み合わせ、「休日は職員以外入室禁止」、「講演会中はAPIをゲストユーザに開放」といったような判断条件を容易に記述できる言語とデータベースよりなるアクセスコントロールのフレームワークを用意した。ucodeを基盤としたuIDアーキテクチャにより、状況に応じてユビキタス環境でデータと制御のアクセスコントロールを柔軟に行える、プログラマブル建築のためのガバナンスのオープンな基盤の整備に注力した。

図22 ダイワユビキタス学術研究館の外観

図23 配管がむき出しになっている天井

図24 タブレット操作で状況に応じたアクセスコントロールの設定が可能

図25 グラフィックデザインにもこだわった設備制御アプリ

2017 INIAD HUB-1

2017年に創設されたINIAD(東洋大学情報連携学部)のキャンパス「INIAD HUB-1」は、総床面積19,000㎡のビルの中に約5,000個のIoTデバイスが設置された、最先端のIoTビルディングである。外観設計はダイワユビキタス学術研究館と同じく隈研吾氏が担当した。建築設備やインテリアデザインを含めた内装は坂村によるもので、さまざまな工夫が凝らしてある。教材はプロジェクターに投影するため教室には黒板や白板がなく、人間工学に基づくデザインによる長時間座っても疲れない椅子を設計した。紙の本のない図書館や、デジタルサイネージによる情報表示など、徹底的に紙の使用を排除した。

INIAD HUB-1は環境自体がすべてIoTの教材になっている。センサー、照明、空調、ロッカー、エレベーターなど、さまざまな設備や機器をネットワークに接続しAPIを通じて操作できる。それらがキャンパスの状況にあわせて協調動作することで、人々に最適な環境を与え、使用エネルギーの最適化を図る未来のキャンパスを実現した。ここでも天井板を張らず、配線や設備追加の発達余裕を持たせている。キャンパス内のセンサーを利用して環境を自動認識して制御を行い、利用者からの指示はスマートフォンやPCからネットワークを通じて行える。

INIADでは少人数制の授業の特徴を活かし、APIを使った授業を積極的に展開している。たとえばIoTデバイスを使って教室の照明を制御するプログラミングの演習を行っており、実習中はプログラムで照明制御APIを呼び出せば、実際に自分がいる教室の照明を点けたり消したりでき、さらに照明制御APIと音声認識APIを組み合わせて、音声で照明を制御することも可能だ。また、学生一人一人にIoT教材としてインテリジェントロッカーを割り当てているが、扉はIoT制御によってしか開けられない。そして学生にはUIを渡さず、APIとアクセストークンのみを提供するので、プログラミングによりスマートフォンやICカードに扉を紐づけることではじめて自分のロッカーが使えるようになる。

実験施設のIoTテストハブでは、ネットワーク接続したIoT-Engineを搭載して運転制御できるように改造した模型自動車「T-Car」が走る。各種センサーからのデータとネットワーク通信での指示などを受けてT-Carを制御する自動運転プログラムを作成し、床面のディスプレイに表示されるテストコースを走行させる。

Makers’ Hubは、コンピュータを使ったものづくりをするためのスペースで、学生や教員がアイデアをすばやく形にするための環境を整備した。たとえば、3Dプリンタやレーザー加工機、3Dスキャナなどのデジタルファブリケーションのための機材や、ロジックアナライザーやオシロスコープなどの電子工作のための計測機器などを取り揃えている。

図26 INIADの外観

27図27 黒板のない小教室

28図28 人間工学に基づく椅子

29図29 メディアセンター(紙の本のない図書館)

30図30 デジタルサイネージ

図31 天井はセンサー等の研究用IoTデバイスの設置・取り換えや配線を簡単にするため「あらわし」とした

32図32 アクセス権があれば、プログラムすることで室内設備やエレベーターのコントロールまで可能

33図33 学生用ロッカーはすべてAPI 制御で取っ手も鍵穴も番号もなく、学生はプログラムしないと使えない

34図34 IoT Test HubとT-Car

35図35 Makers’ Hub

2019 Open Smart URスタートアップモデル住戸

INIAD cHUB(東洋大学情報連携学 学術実業連携機構)と独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)は、UR賃貸住宅の住環境向上のためにINIADがIoTとAI技術を活用した技術協力を行うための覚書を2018年1月30日に締結した。そして「HaaS」(Housing as a Service)という新たな発想のもと、IoTやAIなどの情報技術を活用した魅力的で安心な生活環境である「Open Smart UR」の実現に向けた検討を重ねてきた。

2019年6月、赤羽台団地(東京都北区)において、未来の住まい方を提示し、そのコンセプトを検証するための「Open Smart UR スタートアップモデル」住戸を公開した。歴史的建造物として残されたスターハウスの中に作ったコンセプトルームは、44㎡の和室をワンルームに改造して、44個のセンサーやコンピュータを入れて、さまざまな環境変化を計測できる生活空間をデザインした。

各種の住宅設備が連携して住環境を最適化するIoT住宅になっており、身の回りの家具や家電、敷地内のさまざまなモノがネットワークにつながれた「センサー」となり、状況の立体的な把握が可能になっている。たとえば、見守りカメラや各種画像センサーからのデータをもとに「人が倒れた」などの異常状態をAIが判定するなど、トラブルの早期発見や不審者通報、防犯対策ができる。また、メーカーの垣根を越えてさまざまな機器がAPIにより協調動作することで、空調とサーキュレーターの連動によるヒートショック防止など、安全な住空間を提供したり、床暖房や放射冷暖房などの空調設備を各所に設置された多様なセンサーにより最適制御することで、快適な住環境を提供したりできる。

高齢者や障碍者など多様な住人の生活スタイルに柔軟に対応できるプログラマブル住宅なので、スマートスピーカーや各種センサー群と柔軟に連携して、音声での指示や手を振ったりするだけで照明やテレビをつけたり、電灯の自動点灯やブラインドの開閉などを自由にカスタマイズしたりできる。また、壁面の大型ディスプレイにはOpen Smart URのサービスメニューが表示されるので、生活に役立つ情報を入手したり、さまざまなサービスを申し込んだりできる。健康管理アドバイスを参考にメニューを決めると冷蔵庫に足りないものを適切な受け取り時間で自動発注するなど、フードデリバリーサービスと冷蔵庫や調理機器などの家電連携によるさまざまな可能性も提示した。

さらに、IPv6、高速ネットワーク回線、5Gといったネットワーク環境も整備し、自宅で働けるスマート住宅としての設備も充実させた。多彩なワーク機能を集約したダイニングキッチンにはビジネスデスクに変形する多機能ダイニングテーブルを設置し、オフィス空間とシームレスに切り替わる。

スマート宅配ボックスは、ネットワークに接続されてプログラム制御されている。2次元コードを利用した個人認識やボックス内のウェブカメラなどを使って、より円滑にモノのやり取りを実現できるよう工夫した。

そうしてコンセプトに賛同した企業などとともに「Open Smart UR研究会」を立ち上げ、さらに発展した実験住居の構築を進め、2021年には、研究会のメンバーがさまざまな接続試験やサービス連携研究を行うための施設「INIAD cHUB スマートハウス・テストルーム」をINIADの中に設置した。ここでは各社が自社の機器やサービスを持ち込み、プラットフォームに接続して他社の製品との連携を実験、検証している。

36図36 スターハウス外観

図37 ダイニングと寝室

図38 カメラとセンサー群

図39 浴室でのヒートショックの警告表示

40図40 サーキュレーターで温度ムラを調整

図41 寝室の放射冷暖房

図42 大型ディスプレイに表示されたOpen Smart URサービスメニュー

43図43 冷蔵庫内の食品状況をお知らせ

図44 テレワークのためのコンセプト家具。プログラミングで室内のAPIを制御できる

図45 スマート宅配ボックスはスマートフォンで開閉できる

2022 Open Smart UR生活モニタリング住戸

2022年10月、登録有形文化財として保存された旧赤羽台団地の板状住宅をリノベーションした「生活モニタリング住戸」が完成した。

坂村がデザインしたカスタマイズモデル(101号室・102号室)は、居住者像として高齢者夫婦・若年ファミリーを想定。「長く過ごせる住宅」「変われる住宅」をコンセプトに、わずか39㎡の室内を有効に使うためにスマート置き配スペースや可動式のロボット家具を実装している。

住戸から出てくるさまざまなビッグデータを収集して、住宅を最適設計するための検討データを取得するため、100個以上のセンサー群を設置。見守りカメラ、サーモイメージセンサー、ミリ波レーダー、環境センサー、水道流量、ガスメーター、電気計、扉の開閉センサーなどを折り上げ天井の縁に目立たないように設置して、住んでいる人たちがどういう動きをしているのか、住環境での生活モニタリングを行う。同時に測定データの相関による各種センサーの機能検証、適切なミニマムセンサーセットや最適配置の検討も行っている。

コロナ禍において、リモートワークのためのスペースや、非接触で荷物の受け取りができるロボット家具でできた宅配スペースにも注目が集まった。ロボット家具は、収納家具が移動することによってベッドにもソファにも使えるというもので、リビングモード、ワークモード、就寝モードを切り替えて生活空間を変身させることができる。玄関先のスマート宅配ボックスは自動開閉式の扉になっており、大きなものも入れられるし、冷蔵機能もあって多機能に利用できる。

照明、エアコン、スマートロックなどのさまざまな設備がAPI連携で制御可能となっており、いろいろな家電や家具をコンピュータでコントロールできる。「OK Google、おやすみ」と言うと畳ベッドがリビング側にせり出してきて、「Alexa おはよう」と言うとベッドが仕舞われカーテンが開くという具合で、Googleだけでなく、Amazon Alexaなど、オープンアーキテクチャに基づくものは全部つながる。また、リビングや洗面所のディスプレイには、電車やバスの運行情報や、団地内のお知らせなどが表示される。

モデル住戸では、実際に生活体験を行い、データ取得・分析(生活モニタリング)による実証実験を進めている。こうしたIoTやAIなどのスマート技術を活用し、豊かな団地の暮らしを実現するための実証実験の場として活用していく。

図46 天井に設置されたカメラやセンサー

図47 ホームモニターにセンサーの情報を表示

図48 可動式のロボット家具のしくみ

図49 日中はソファセット、夜はベッドになるロボット家具

図50 畳敷きの寝室と、小上がりとテレワークスペースを仕切る収納機能も備えたロボット家具

図51 スマートロッカー機能を持つ玄関のロボット家具

2023 IoT+AI Smart Housing

「サステナブランシェ本行徳」(千葉県市川市)は東京メトロ東西線「妙典駅」より徒歩6分に位置しており、もともとは企業寮として建設された建物を長谷工コーポレーションが取得、リノベーションしたものだ。総戸数36戸のうち13戸を実験住戸として位置づけており、「GREEN RENOVATION」を謳って最先端のAIやIoT機器を導入し、センサーから各種データを取得することで技術開発・研究に活かしている。

その実験住戸の一つが、坂村のデザインによる、INIAD cHUBと長谷工の共同プロジェクト「IoT+AI Smart Housing」である。住戸内の設備をIoT化することですべてがAPI制御可能な環境を構築し、各種センサーからデータを取得。「AIが生活をアシストする」というコンセプトのもとでモデル住戸を建設した。

設備として内扉と外扉を電気錠で管理することで置き配スペースにもなる玄関、ロフトに昇降する際に開閉する折り畳み式の階段、AIが自律的に形状を変化させることで空間の効率化・最適化を実現するロボット家具などがある。住宅内に設置された状態認識のためのセンサーは多岐に及ぶが、たとえば冷蔵庫への物の出し入れを自動的に記録する冷蔵庫収容センサーを活用すれば、その履歴からAIが食材を組み合わせ、調理や買い物の提案をすることなども可能になる。センサーから収集された各種データを活用し、住まい手がAIのアシストで自在に住環境をプログラミングし、カスタマイズすることも想定される未来像である。スマートハウスには環境を把握するためのセンサーやカメラを多く設置しているが、今までの電脳住宅シリーズで培った、各種電子機器をきれいに隠して違和感なく設置するノウハウの集大成となっており、デザイン性の高いインテリアを実現している。

図52 IoT+AI Smart Housingは長谷工「サステナブランシェ本行徳」の中の居住型実験住宅としてデザイン

図53 (上)通路とロフトへの階段を兼用する自動制御のロボット階段(下)冷蔵庫収容センサーをはじめ室内に多数のセンサーを設置

図54 1台の大型TVをさまざまなエリア向けに使える自動制御の可動テレビ台

図55 150個のセンサーを性能の低下なくかつ存在感なく設置するために、折り上げ天井の周囲に黒のスリットを作って設置

* * *

初代TRON電脳住宅から後続の住宅、ビルまでを俯瞰すると、TRONプロジェクトが当初から掲げてきた構想の具現化の過程が浮かび上がる。ユビキタスコンピューティングやIoT環境という概念が、各時代の最先端技術を結集し、段階的に現実のものとなっていった軌跡である。1980年代に端を発したインテリジェント住宅の取り組みは、時代の流れとともに進化を遂げた。約30年の歳月を経て、幾多の研究開発の成果が我々の日常に溶け込んでいったのだ。今日の生活環境を見渡せば、かつての構想が着実に実を結んできたことが明らかである。これらの住宅やビルは、技術革新とその社会への浸透を示す重要な指標といえる。長年にわたる努力と革新の歴史を体現する、まさに「マイルストーン」なのである。

IEEEマイルストーン記念式典

日時:2024年11月28日
会場:東京大学 ダイワユビキタス学術研究館

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2024年6月、「TRON電脳住宅」がIEEEマイルストーンの"The Pioneering TRON Intelligent House, 1989"として認定された。これを記念し、同年11月28日に贈呈式、除幕式、記念講演会が執り行われた。

会場となったのは、東京大学本郷キャンパスのダイワユビキタス学術研究館の石橋信夫記念ホール。この建物は、TRON電脳住宅を牽引してきた坂村健・東京大学名誉教授が東京大学在籍中に設計・建築に携わったものであり、今回認定されたTRON電脳住宅の系譜に連なる場所での開催となった。

出席者として、坂村健名誉教授をはじめ、IEEE東京支部長の相澤清晴氏、2020年度IEEE会長の福田敏男氏、IEEE Japan Council History Committee会長の白川功氏、東京大学大学院情報学環の越塚登教授、日本電信電話株式会社(NTT)の荒金陽助氏、IEEE History Committeeメンバーとしてマイルストーン申請のアドボケートとなった龍谷大学名誉教授の長谷智弘氏、そしてトロンフォーラムなどの関係者が集まった。

当日は、福田氏から坂村名誉教授への銘板贈呈と記念撮影が行われ、続いて坂村名誉教授による記念講演が開催された。その後、一行は会場1階のエントランスホールに移動し、坂村名誉教授、福田氏、相澤氏、白川氏の4人の手により銘板の除幕が行われた。設置場所は2023年のTRONリアルタイムOSファミリーのIEEEマイルストーン銘板の隣となり、二つの名誉ある銘板が並ぶこととなった。

以下、残念ながら式典には参加できなかったIEEE2024年度会長のトーマス・コフリン氏のビデオメッセージも含め、当日の模様をお届けする。

IEEE MILESTONE

The Pioneering TRON Intelligent House, 1989

The first TRON Intelligent House was based on the concept of a Highly Functionally Distributed System (HFDS) as proposed in 1987. Built in Tokyo in 1989 using about 1,000 networked computers to implement the Internet of Things (IoT), its advanced human-machine interface (HMI) provided 'ubiquitous computing' before that term was coined in 1991. Feedback by TRON's residents helped mature the HFDS design, showing how to live in an IoT environment.

November 2024


IEEE MILESTONE

世界に先駆けたトロン電脳住宅, 1989年

最初のTRON電脳住宅は、1987年に提案した「超機能分散システム」(HFDS:Highly Functionally Distributed System)の概念に基づいて建てられた。1989年に東京で完成したこの住宅では、約1,000台のコンピュータがネットワークにつながれ、今でいう「モノのインターネット(IoT)」を実現した。また、先進的なヒューマンマシンインタフェース(Human Machine Interface)を備え、「ユビキタスコンピューティング」という言葉が生まれる1991年より前にその概念を実現した。TRON電脳住宅に住む人々からの意見を取り入れることで、HFDSの設計はさらに改良され、IoT環境での暮らし方を提案してきた。

2024年11月

IEEEマイルストーン認定銘板

主催者からの挨拶

相澤 清晴 氏 (IEEE東京支部 支部長)

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今日のIEEEマイルストーン授与の記念式典を多くの方々と迎えられたことをたいへん嬉しく思います。昨年もこの会場で同じようにTRONリアルタイムOSファミリーのマイルストーン授与の式典を行いました。2年続けての授与はたいへん素晴らしいことであり、支部長として再びのこの式典に携われることをたいへん光栄に思います。

IEEEマイルストーンは、電気電子の分野において達成された画期的なイノベーションの中で、開発から少なくとも25年以上経過し、社会や産業の発展に多大な貢献をしたという歴史的な業績を認定する制度です。IEEEマイルストーンに認定されると、その業績を記した銘板が贈呈され、ゆかりの地に展示されます。1983年に創設されて以来、2024年現在、世界で263件のIEEEマイルストーンがあります。その中には18世紀のベンジャミン・フランクリンの業績やボルタ電池の発明まで含まれ、20世紀以降では、半導体、情報通信分野などコンピュータ関連の新技術が多数認定されています。

国としてのマイルストーン認定数をみると、米国を除けば日本が突出して多く、今年2024年までに46件が認定されています。その最初のものは指向性短波アンテナ(八木アンテナ)であり、銘板が東北大学にあります。そして、今回のThe Pioneering TRON Intelligent House, 1989は日本で46件目、東京支部では23件目になります。今年認定された他の業績には、トヨタのプリウスや島津製作所の質量分析機などがあり、こうした実績と肩を並べての認定になります。

今回の認定対象は、TRONアーキテクチャの中でも、上端の応用レベルである住宅とそれを支えるHFDS(Highly Functionally Distributed System:超機能分散システム)です。一方、昨年認定されたTRONのリアルタイムOSは下端の基礎レベルであり、上端と下端が2年連続で認定されたということになります。これらの業績は、昨今のIoT(Internet of Things)の進歩を生んだものであり、IEEEマイルストーンにふさわしい業績であると考えています。

来賓からの挨拶

福田 敏男 氏 (IEEE 2020年度会長)

IEEEは世界160か国、47万人の会員を持ち、200の学術雑誌と年間2,000近くの国際会議を運営する組織です。また、高品質なパブリケーションと標準化を手がけています。IEEEは1883年に創設され、マイルストーン認定はIEEE100周年を機に1983年に始まった事業です。

TRON電脳住宅は、1989年当時に1,000個のコンピュータを相互接続して実現されました。このシステムは真に世界の先駆けとなる画期的な成果であり、現在のIoT技術の源と言えると思います。そして今回の授与は、申請から認定までわずか約1年と短期間で達成しており、TRONプロジェクトの素晴らしい業績を示したものでもあります。

今TRONの技術が社会のいろいろなところで使われており、今回の認定によりそのことが新たに認識され、これらの科学技術のさらなるイノベーションを推進するものと考えています。

白川 功 氏 (IEEE Japan Council, History Committee会長)

TRONプロジェクトは以前からたいへん有名な研究で、今回の認定は遅すぎるぐらいだと思っています。私は日本でのHistory Committeeの会長を務めていますが、TRONのような重要な業績がマイルストーンとして認定されることを長年期待していました。今後、より大きな成功を収めることを願っています。

越塚 登 氏 (東京大学大学院 情報学環 教授)

1989年竣工のTRON電脳住宅は、私が大学院生当時からたいへん注目を集めており、坂村先生が陣頭指揮を執られ、先輩方が熱心に取り組む姿を拝見していました。最近改めて調べたところ、報道でのTRONプロジェクトの取り上げ件数は一つの新聞社で40件以上、TRONプロジェクト全体では2,000件以上あり、社会に与えたインパクトの大きさを実感しました。2023年に続き二つめのIEEEマイルストーン銘板が設置される情報学環として、その業績に恥じないよう今後も世界的な成果を出せるよう邁進していきたいと考えています。

トーマス・コフリン 氏(IEEE会長)ビデオメッセージ

IEEEの2024年度会長を務めているトーマス・コフリンです。本日皆様にお話しできることを嬉しく思います。はじめに、The Pioneering TRON Intelligent House, 1989のIEEEマイルストーン授与を心よりお祝い申し上げます。

IEEEマイルストーンは、私たちが現在目にする新技術の創造の礎となった、卓越した先人たちの功績を称えるものです。35年前にスマートハウスの創造に携わった関係者の皆様が、この機会をたいへん喜ばしく思っていらっしゃることと確信しています。The Pioneering TRON Intelligent House, 1989についての説明は、専門家の方々にお任せしたいと思います。

ただ一点、申し上げたいことがございます。このスマートハウスは、ユビキタスコンピューティングという言葉が生まれる前の時代に建設され、IoTという概念が普及するまでには、さらに十数年を要しました。このスマートハウスは、HFDSとよばれる家全体を統合的に捉えた視点で制御されていました。これは実に素晴らしい功績です。

ちなみに、私は2023年10月に東京で行われたTRONリアルタイムOSファミリーのマイルストーン授与式に出席し、東京大学のキャンパスで坂村健博士にお会いしました。本日は、The Pioneering TRON Intelligent House, 1989のマイルストーン受賞者となられます。坂村さん、おめでとうございます。

ここでIEEE会長として、IEEEとは何か、そして皆様にどのような貢献ができるかについてお話ししたいと思います。このマイルストーンは、IEEEの活動のほんの一部に過ぎません。たとえば、IEEEは皆様のキャリア形成をサポートすることができます。IEEEは世界最大の技術者専門組織です。具体的には、キャリアに役立つコミュニケーションやネットワーキングのスキルを磨く機会を提供しています。日本でも、若い世代を中心に転職が増えていると伺っており、他の国々ではこれは一般的なことです。このような環境で成功するためには、生涯学習を続け、最新の知識を維持し、競争力を保つためのスキルを育成する必要があります。

本日の授与式に出席しているIEEEの代表者たちが、皆様の目標達成をお手伝いできると確信しております。そして皆様が、それぞれの分野で大きな成功を収め、変化をもたらし、世界をより良い場所にするための素晴らしい成果を上げられることを願っています。なぜなら、IEEEのモットーは「人類の利益のための技術の進歩」だからです。

本日はお話しする機会をいただき、ありがとうございました。

産業界からの祝辞

川添 雄彦 氏(日本電信電話株式会社 代表取締役副社長 副社長執行役員)

代読:荒金 陽助 氏(同社 研究企画部門 IOWN推進室 室長)

1989年当時、弊社NTTは研究所を中心にTRON電脳住宅プロジェクトに協力しました。さまざまな機能を持った住宅を構成するノードがネットワークでつながり、機器間で連携しながら最適化されたサービスを提供するという考え方は、現在のIoTの先駆けとなりました。このプロジェクトでは、トイレの尿自動分析装置や血圧計を設置し、弊社のISDN回線を通じて病院へデータを送信する実験も行われました。当時としては非常に先進的だった遠隔診療の考え方は、現在では一般的となっています。

現在、私どもNTTはIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)(アイオン)の研究開発を進めており、遠隔診療やロボットを使用した遠隔手術などに取り組んでいます。これらの技術のルーツがTRON電脳住宅にあったことを誇りに思います。

返礼の挨拶

坂村 健 (東京大学名誉教授)

長年にわたり、IEEEの活動に関わらせていただく機会に恵まれ、IEEE Microの編集長を務めさせていただいたほか、さまざまな国際会議にも参加させていただきました。この経験を通じて、日本の優れた技術や取り組みを、もっと積極的に世界に発信していく必要性を感じています。今後も、日本の技術革新の歴史的価値を世界に示していけるよう、微力ながら活動していきたいと考えております。

今回の認定にあたり、IEEEの東京支部の皆様には多大なるご支援とご協力を賜り、心より感謝申し上げます。

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 参考情報

IEEEについて

IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子学会:アイトリプルイー)は、人類の利益のために技術を進歩させることを目的とした世界最大の技術専門組織です。IEEEとIEEEメンバーは頻繁に引用される出版物、国際会議、標準規格(スタンダード)、および専門的・教育的活動を通じ、航空宇宙システム、コンピュータ、テレコミュニケーションから、バイオメディカル・エンジニアリング、電力、コンシューマー・エレクトロニクスに至るまで、幅広い分野で信頼されています。

IEEEマイルストーンについて

電気電子工学とコンピューティングプログラムにおけるIEEEマイルストーンは、IEEEに関連するあらゆる分野における重要な技術的業績を称えるものです。それはIEEE History Committeeのプログラムで、IEEE History Center を通じて運営されています。

IEEEマイルストーンは、ユニークな製品、サービス、重要な論文、特許に見られる人類の利益につながる技術革新と卓越性を評価するものです。

IEEEは、1984年の100周年記念式典に合わせて、IEEEが代表する専門職や技術を生んで育てた巨人の世紀 (Century of Giants)の功績を称えるために、1983年にMilestones Programを設立しました。

各マイルストーンは、IEEEに代表される技術分野において、25年以上前に誕生し、特定地域での普及あるいはそれ以上の影響を与えた重要な技術的業績を認定するものです。2024年11月までに、世界中で260以上のマイルストーンが承認され、贈呈されています。

TRONプロジェクトについて

TRONプロジェクトは、1984年に発足した産学協同のコンピュータ・アーキテクチャの開発プロジェクトです。坂村健、IEEE Life Fellow/IEEE Computer Society Golden Core Member、東京大学名誉教授、INIAD cHUB(東洋大学情報連携学 学術実業連携機構)機構長、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所長をプロジェクトリーダーとし、組込みシステム向けのリアルタイムOSとその開発環境整備からIoTネットワークまで、さまざまなコンピュータ分野の開発を進めています。

TRONプロジェクトの成果は、自動車のエンジン制御、デジタルカメラや携帯電話などの情報家電といった民生分野の製品から、工場内の機械制御や宇宙機の制御といった産業分野、さらに家具、住宅、ビルといった建築分野まで、さまざまな分野の組込みシステムに世界中で幅広く利用されています。

TRON プロジェクトはオープン・アーキテクチャを標榜しプロジェクトの活動を行ってきました。また、国際標準化団体に積極的に技術仕様を標準案として提案し、基盤技術の国際標準化に貢献しています。

トロンフォーラムについて

トロンフォーラムは、TRONプロジェクトの推進のため2002年に設立されました。組込みシステムの開発環境を整備するT-Engineプロジェクトと、ucodeをはじめとするユビキタスIDセンターの運営を軸として、積極的な活動を展開してきました。

2015年5月には坂村会長が、ユビキタス・ネットワークやIoTの起源となったオープン・アーキテクチャTRONを提唱したことにより、アジアからただ一人、ビル・ゲイツ氏らとともにITU150周年賞を受賞しました。また、2023年1月には坂村会長が「消費者向け電化製品に使われる組込みコンピュータ用のオープンでフリーなOSの開発に果たしたリーダーシップ」に対して、IEEEからIEEE Masaru Ibuka Consumer Technology Awardを受賞するなど、その活動内容は世界的にも高い評価を得ています。

坂村 健(さかむら けん) プロフィール

1951年東京生まれ。

東京大学名誉教授、INIAD cHUB(東洋大学情報連携学 学術実業連携機構)機構長、工学博士。

1984年からオープンなコンピュータ・アーキテクチャTRONを構築。現在TRON RTOSはモバイル端末、家電製品、車のエンジン制御、宇宙機の制御など世界中で多数使われており、2018年、IoTのためのIEEE標準組込みOS IEEE 2050-2018として採用された。2023年「TRONリアルタイムOSファミリー」がIEEEマイルストーンとして認定された。さらに家具、住宅、ミュージアム、ビル、都市などへの広範囲なデザイン展開を行っている。

IEEEライフ・フェロー、IEEE Computer Societyゴールデンコアメンバー。IEEE 「Micro誌」編集長(1998年〜2002年)。

2015年には、ITU(国際電気通信連合)150周年賞(ITU150 Awards)を受賞。情報通信のイノベーション、促進、発展を通じて、世界中の人々の生活向上に多大な功績のあった世界の6人の中の一人として選ばれる。2023年 IEEE Masaru Ibuka Consumer Technology Award受賞。

2001年市村学術賞特別賞
2001年情報処理学会40周年記念論文賞
2001年経済産業大臣賞
2001年武田賞
2002年YRPユビキタス・ネットワーキング研究所 所長
2002年T-Engineフォーラム(現 トロンフォーラム)会長
2002年総務大臣賞
2003年紫綬褒章
2004年大川賞
2005年産学官連携功労者表彰内閣総理大臣賞
2006年日本学士院賞
2006年C&C賞
2015年国際電気通信連合(ITU)150周年記念賞
2017年東京大学名誉教授
2018年TRONがベースの組込みOS IEEE 2050-2018がIEEE 標準として成立
2023年IEEE Masaru Ibuka Consumer Technology Award 受賞
2023年TRONリアルタイムOSがIEEEマイルストーン認定
2023年環境芸術学会 学会大賞
2024年瑞宝中綬章
2024年TRON電脳住宅がIEEEマイルストーン認定


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