ここでは、本セミナーに関連する技術用語を解説する用語集を提供します。用語集には、一般的な組込みシステムにおける技術用語とトロン関連(ITRONまたはT-Engine)の技術用語が含まれています。ここにまとめた技術用語のうち、特定の仕様に固有の用語は次の記号で示します。
(I) ITRON仕様書全般
(I3) μITRON3.0仕様書
(I4) μITRON4.0仕様書
(T) T-Kernel仕様書
技術用語 | 意味 | 備考 |
---|---|---|
AMP:Asymmetric Multi Processor | 非対称型マルチプロセッサ。異なる種類、あるいは異なる機能を持つ複数のMPUを組み合わせたマルチプロセッサである。機能分散型マルチプロセッサ、ヘテロジニアスマルチプロセッサと呼ばれる。 | |
API:Application Program Interface | アプリケーションプログラムにおいてカーネルやソフトウェア部品の機能を利用する際に使用するインタフェース(関数セット)である。 | |
CPU:Central Processing Unit | コンピュータや組込みシステムを構成する主要なハードウェア部品であり、メモリから読み込んだ機械語の命令を解釈、実行し、各装置の制御指示やデータ処理を行う。近年のCPUは、通常、1つのLSI、あるいはLSIの一部のCPUコアとして実装される。LSI化されたCPUをマイクロプロセッサと呼ぶことから、CPUはMPU(Micro Processor Unit)とも呼ばれる。また、メモリや周辺デバイスの制御機能もCPUと同じLSIに詰め込むことにより、組込み制御用のコンピュータシステム全体がワンチップないしは少数のチップで実現できる。このようにワンチップ化された制御用のコンピュータを、MCU(Micro Controller Unit)と呼ぶこともある。 | |
CPUロック:CPU Lock (I) | 組込みシステムは、CPUロック状態またはCPUロック解除状態かのいずれかの状態をとる。CPUロック状態では、カーネルの管理外の割込みを除くすべての割込みが禁止され、ディスパッチも起こらない。また、割込みが禁止されていることからタイムイベントハンドラの起動も禁止される。 | ITRON仕様書全般 |
Cygwin | LinuxなどのUNIX向けに開発されたプログラム(gccコンパイラなど)を、Windows PC上で動作させるためのエミュレータプログラムである。CygwinのプログラムはCygwin プロジェクトのWebサイトから無償で入手することができる。 | |
DIC:Device Interface Component (I4) | デバイスドライバ設計ガイドラインに従って構築されたデバイスを扱うソフトウェアモジュールである。 | μITRON4.0仕様書 |
FCFS:First Come First Served | データを処理する場合に、最初に入ってきたデータから順番に処理していく方式である。組込みシステムにおいて、同一優先度のタスクが複数ある場合に、最初に実行可能となったタスクから実行していく先着処理方式がFCFSに相当する。 | |
FIFO:First In First Out | 先入れ先出し方式。データやメッセージを蓄積する際に、最初に入ったデータから順番に使っていく方式である。FIFOで処理されるデータ構造はキューと呼ばれる。LIFOとは逆になる。 | |
GCC:GNU Compiler Collection | GNUソフトウェア・システムの上で動く無償のコンパイラパッケージである。多くの組込みCPUに対応しており、T-Engine開発キットなどで利用されている。 | |
GDIC:General DIC (I4) | デバイスドライバ設計ガイドラインに従って構築されたアーキテクチャ(DICアーキテクチャ)において、デバイスを扱うソフトウェアモジュールの一つであり、汎用的な処理を行う。 | μITRON4.0仕様書 |
GNU:GNU is Not UNIX | FSF(Free Software Foundation)が開発を進めているUNIX互換ソフトウェア群の開発プロジェクトの総称である。この他、FSFのフリーソフトウェアのUNIX互換システム開発環境もGNUと呼ばれている。 | |
GUI:Graphical User Interface | コンピュータや組込み機器を操作する際に、グラフィック画面に表示されたアイコンやボタンなどをマウス、タッチパネルなどで操作することにより、コンピュータへの指示を行う方式である。 | |
ITRON:Industrial TRON (I) | TRONプロジェクトのサブプロジェクトの1つである。組込みシステム用リアルタイムOSの標準仕様であるITRON仕様およびμITRON仕様を策定、公開している。μITRON仕様は、日本の組込みシステム業界のRTOSのデファクトスタンダードとなっている。 | ITRON仕様書全般 |
ICE:In-Circuit Emulator | 用語集内のEmulator参照 | |
ID番号:Identification Number (I,T) | タスクやセマフォなど、RTOSの機能として提供されるオブジェクトを区別するための番号のこと。一般に、オブジェクトを操作するサービスコールでは、パラメータの1つがID番号となる。 | ITRON仕様書全般, T-Kernel仕様書 |
IRC:Interrupt Request Controller | 割込みを制御するためのハードウェア回路のこと。割込みとは、周辺デバイスやタイマなどからのハードウェア的な信号の入力により、CPUが実行中のプログラムを中断して、別のプログラムを呼び出す機能である。 μITRON4.0仕様では外部割込みによって起動される処理として、割込みハンドラと割込みサービスルーチンがある。 | |
LIFO:Last in First Out | 後入れ先出し方式である。データを処理する場合に、最後に入ったデータから順番に使っていく方式である。LIFOで処理されるデータ構造はスタックと呼ばれる。FIFOとは逆になる。 | |
OS:Operating System | オペレーティングシステムの略である。組込みシステムでは、リアルタイムな制御を行うために、RTOS(Real-Time Operating System)を使う場合が多い。 | |
PDIC:Primitive DIC (I4) | デバイスドライバ設計ガイドラインに従って構築されたアーキテクチャ(DICアーキテクチャ)において、デバイスを扱うソフトウェアモジュールの一つである。デバイス固有の処理を行うモジュール。PDICは、アプリケーションやソフトウェア部品からの要求の受付けおよび同期処理を行い、OSに依存する処理を行う。 | μITRON4.0仕様書 |
RTOS:Real-Time Operating System | リアルタイムシステム(実行時間に厳しい制約があるシステム)を制御するために開発されたオペレーティングシステムである。RTOSでは、実行するタスクに優先度を設けて、優先度の高いものから順に処理するといった機能がある。このような機能を利用することで、時間的な制約を満たすスケジューリングを可能としている。組込みシステムでは、高速な処理が必要となることが多いので、RTOSを利用することが多い。 | |
SIL:System Interface Layer (I4) | デバイスドライバ設計ガイドラインに従って構築されたアーキテクチャにおいて、システムの動作環境に依存した部分を扱うソフトウェアモジュールである。 | μITRON4.0仕様書 |
SMP:Symmetric Multi Processor | 対称型マルチプロセッサ。複数の同じコアが搭載されたマルチプロセッサであり、負荷分散型マルチプロセッサ、ホモジニアスマルチプロセッサとも呼ばれる。 | |
SVC:Supervisor call, Service Call | 用語集内のService Callを参照 | |
TCB:Task Control Block | 用語集内のTask Control Blockを参照 | |
T-Engine (T) | T-Engineフォーラムが提唱する、ユビキタス・コンピューティング機器開発のための標準開発プラットフォームである。組込みシステム開発用の評価ボードと、標準リアルタイムOSであるT-Kernel、関連するソフトウェア、開発ツールなどにより構成されている。 | T-Kernel仕様書 |
T-Kernel (T) | T-Engineフォーラムが次世代の組込みシステム用に開発したRTOSである。T-KernelにはμITRON仕様OSの基本機能に相当する機能のほかに、デバイスドライバ管理、サブシステム管理などの機能が追加されている。また、T-Kernel Extensionと呼ばれる拡張プログラムと組み合わせることにより、プロセス管理、ファイル管理、仮想記憶など大規模なシステム向けの機能も利用できる。一方、小規模なシステム向けには、μITRONとT-Kernelの両方のメリットを取り入れたμT-Kernelの仕様が策定されている。さらに、マルチプロセッサやマルチコアプロセッサ向けにはMP T-Kernelが開発されており、さまざまな組込みシステムに対応することができる。 | T-Kernel仕様書 |
TRON:The Real-time Operating system Nucleus | 理想的なコンピュータアーキテクチャの構築を目指して、1984年に東京大学の坂村健博士が始めたプロジェクトの名称である。近未来の高度にコンピュータ化された社会におけるコンピュータやネットワークのあり方を研究している。その究極的な目標は、コンピュータが内蔵され、ネットワークに接続された機器が協調動作する超機能分散システム(HFDS: Highly Functionally Distributed System)の実現である。 | |
アイドル状態:idle state | コンピュータシステムにおけるアイドル状態とは、システムが動作を実行していないが、すぐに実行可能(READY)状態になることが可能な待機状態のことである。 | |
イベント:event | 入出力の完了、新しいデバイスの接続、キーやマウスからの入力など、システムやプロセス、タスクなどの状態変化のきっかけとなる事象を総称してイベントと呼ぶ。イベントは、まずハードウェアの入力信号の変化や割込みとしてRTOSやデバイスドライバ、ユーザアプリケーションなどに通知される。それぞれのイベントに対する処理内容は、イベントの種類や意味に応じて異なるが、ITRONやT-Kernelを含むRTOSでは、イベントを効率的に処理するためにさまざまな機能を備えている。 | |
イベント駆動システム:event-driven system | イベントを受け取るたびに、システムの状態を変化させながら動作していくシステムをイベント駆動システムという。この考え方は、リアルタイム処理に欠かせないものである。 | |
インプリメント依存:implementation-dependent | 仕様において、OSの作り方(実装方法)に依存して変化する可能性のある部分をインプリメント依存と呼ぶ。インプリメント依存の部分は、互換性が保てない可能性があるので、プログラムを移植する場合は特に注意が必要である。 | |
エミュレータ:emulator | エミュレータ本来の意味は、ハードウェアにより別のプロセッサや実行環境を模倣するプログラムである。ただし、組込みシステムの開発においては、デバッグのための各種のツール類を指すことが多い。代表的なものは、JTAGなどを経由して開発中の組込み機器(ターゲット)のCPUやメモリの状態を参照、変更する機能を持つインサーキットエミュレータ(ICE)である。また、PC上でターゲットのCPU機能をシミュレートするシミュレータなどの開発ツールも、「エミュレータ」と呼ばれることがある。 | |
オーバーランハンドラ:over run handler (I4) | タスクが設定された時間を越えてプロセッサを使用した場合に起動されるタイムイベントハンドラである。 | μITRON4.0仕様書 |
オープンソース:open source | ソースコードを無償で公開しているソフトウェアである。誰でもそのソフトウェアの改良などを行うことができる。ただし、再配布などの条件の詳細についてはいろいろなバリエーションがある。T-Kernel仕様OSはT-Engineフォーラムがオープンソースで公開しているソフトウェアであるが、その使用や配付の条件として、T-Licenseという契約に従う必要がある。 | |
オブジェクト:object (I,T) | OSにおけるオブジェクトとは、サービスコールの操作対象となるタスク、イベントフラグ、セマフォ、メールボックス、メモリプール、メッセージバッファなどの総称のことである。 | ITRON仕様書全般, T-Kernel仕様書 |
カーネル:kernel | カーネル(Kernel)は核という意味である。コンピュータ用語としては、システムにおいて中核的な存在として機能するものを指す。RTOSでカーネルといえば、メモリ管理やタスク管理など、OSの基本機能を実現する部分を意味している。 | |
拡張SVC:extended SVC (I,T) | ユーザアプリケーションやミドルウェアにより追加されたシステムコール。 | ITRON仕様書全般, T-Kernel仕様書 |
キュー:queue | 先入れ先出し方式(FIFO)を使用したデータ構造である。RTOSでは、OS内部のデータを管理する手法の1つとして使われている。 | |
組込みシステム:embedded system | コンピュータ、あるいはマイクロコンピュータを機器制御用に組込んだシステムを組込みシステムと呼ぶ。組込みシステムには、携帯電話、カーナビゲーションシステム、テレビ、洗濯機ながある。これらの機器には、マイクロコンピュータや制御用のソフトウェアが組込まれている。 | |
コンテキスト:context | プログラムが実行される環境をコンテキストと呼ぶ。RTOSでいうコンテキストには、タスクコンテキストまたは非タスクコンテキストの区別がある。非タスクコンテキストはタスクコンテキストに含まれないコンテキストの総称で、割込みハンドラやCPU例外ハンドラが含まれる。 | |
コンフィギュレーション:configuration | OSで使用するオブジェクトの初期状態やリソースの最大数などの定義である。定義するためのファイルをシステムコンフィギュレーションファイルと呼ぶ。 | |
コンフィギュレータ :configurator (I4) | μITRONではシステムコンフィギュレーションファイル内のオブジェクトの初期状態やリソースの最大数などを解釈し、カーネルが直接扱えるデータ形式に変換し、システムに組み込むためのツールをコンフィギュレータと呼ぶ。 | μITRON4.0仕様書 |
サービスコール :service call (I4) | OSの機能として提供されるAPI。タスクやセマフォといったオブジェクトの操作など、RTOS全般の各種の機能はサービスコールとして提供される。 μITRON3.0仕様、T-Kernel仕様ではシステムコール、μITRON4.0仕様はサービスコールと呼ぶ。一般的には、 SVC(Supervisor call)とも呼ばれる。 ITRON仕様OSのサービスコール、 T-Kernel仕様OSのシステムコールの仕様は、C言語API、パラメータ、リターンパラメータ、エラーコードなどから構成される。 | μITRON4.0仕様書 |
資源:resource | リソースともいう。組込みシステムの実行のために必要な各種の要素を総称して資源(リソース)と呼ぶ。プロセッサ、メモリ、入出力装置などがある。 | |
システムコール:system call (I3),(T) | 「サービスコール」を参照。 | μITRON3.0仕様書, T-Kernel仕様書 |
実装依存 :implementation-dependent (I4,T) | ITRONやT-Kernelの仕様において、実装ないしはシステムの動作条件によって振る舞いが変わる事項であることを意味する。アプリケーションが実装依存の事項に依存している場合、その振舞いは、仕様では保証されない。 | μITRON4.0仕様書, T-Kernel仕様書 |
実装定義:implementation-defined (I4) | ITRONやT-Kernelの仕様において、仕様書で標準化されず、実装ごとに規定すべき事項であることを意味する。製品マニュアルなどでは、実装における実装定義部分の具体的な仕様を示さなければならない。アプリケーションプログラムの中で、実装定義の事項に依存している部分は、移植性が確保されない。 | μITRON4.0仕様書 |
実装独自:implementation-specific (I4) | ITRON仕様において、ITRON仕様が定める範囲外の機能を実装において独自に規定したものであることを意味する。 | μITRON4.0仕様書 |
シングルソース:single source | 組込みシステム用のソフトウェアの流通性を高めるため、OSやソフトウェアのソースコードを一本化したもの。このため、T-Engineフォーラムでは、T-Kernelのソースコードをシングルソースとすることにより、OSの互換性を高めている。 | |
スタック:stack | データを処理する場合に、最後に入れたデータが最初に出てくる仕組みを持つデータ構造である。サブルーチンや割込みハンドラの戻り先を保存するために利用されるほか、ローカル変数を置くメモリ領域としてもスタックが利用される。 | |
スタンダードプロファイル:standard profile (I4) | μITRON4.0仕様で導入されたプロファイルの一つである。μITRON4.0仕様では、ソフトウェアの移植性向上のために、標準的な機能セットとその仕様を厳格に定めている。この標準的な機能セット(API)をスタンダードプロファイルと呼ぶ。 | μITRON4.0仕様書 |
スレッド:thread | 主にUNIXの世界で使われ始めた用語であり、ITRONやT-Kernelでいうタスクと同じく、プログラムの並行処理の単位を意味する。一度に1つのC言語関数しか動作しないシングルスレッドと一度にスレッドの数だけC言語関数が論理的に同時に動作するマルチスレッドがある。 | |
静的API:static APIs (I4) | ITRON仕様では、オブジェクトを静的に生成するためのAPIを用意しており、コンフィギュレーションファイルにオブジェクトの生成を記述することができる。そのためのAPIを静的APIと呼ぶ。μITRON4.0仕様書では、静的APIを大文字で記述し、動的APIを小文字で記述する。 | μITRON4.0仕様書 |
タイマキュー:timer queue | タイムアウト待ちや時間待ちのタスクをつなぐためのキューである。タスク実行中、一定時間処理を中断して待つような場合、待ち状態に入るタスクのTCBをタイマキューにつなぐ。タイマキューの先頭を示すポインタの格納領域をTTCB(Task Timer Control Block)と呼ぶ。 | |
タイマハンドラ:Timer handler (I3) | 「タイムイベントハンドラ」を参照。 | μITRON3.0仕様書 |
タイムアウト:time out (I,T) | あらかじめ定められた時間内に条件が成立しないことを表す。待ち状態に入るサービスコールにおいて、タイムアウトとして指定された時間内に処理が完了しない場合に、待ち状態を中断してサービスコールからリターンする。このとき、サービスコールはE_TMOUTエラーを返す。 | ITRON仕様書全般, T-Kernel仕様書 |
タイムイベントハンドラ:time event handler(I4,T) | 時間に依存して処理を行うハンドラ(周期ハンドラ、アラームハンドラ、オーバランハンドラ)の総称である。 | μITRON4.0仕様書, T-Kernel仕様書 |
タスクコントロールブロック:task control block | RTOSの管理下で動作するタスクに関するいろいろな属性や状態、情報を格納するためのデータ領域である。 | |
タスク独立部:task independent part (I3,T) | 割込みハンドラなど、タスクとは独立したコンテキストで実行される部分である。 | μITRON3.0仕様書, T-Kernel仕様書 |
タスク例外処理機能:task exception handling function (I,T) | タスク例外処理機能はタスク上で発生した例外事象を処理するための機能である。割り込みやCPU例外がタスクとは異なるコンテキスト(非タスクコンテキスト)で処理するのに対し、タスク例外処理はタスクと同じコンテキスト(タスクコンテキスト)で実行される点が異なる。 | ITRON仕様書全般, T-Kernel仕様書 |
チャタリング:chattering | スイッチなどの接点で発生する物理的なバウンドによるノイズのため、ON/OFFを何度も繰り返す現象である。チャタリングによる電子回路の誤動作を防止するため、プログラム上でさまざまな工夫が実施される。 | |
強い標準化:strict standardization (T) | ITRON仕様の後継OSであるT-Kernel仕様では、組込みシステム用のマイクロコンピュータの処理能力とメモリ容量の拡大を背景に、標準開発プラットフォームとしてのハードウェアをT-Engineとして標準化した。また、T-Engineで動作するRTOSをT-Kernel仕様OSとしてソースコードを一本化し、ミドルウェアの流通性を高めることに成功した。この標準化方式を強い標準化と呼ぶ。 | T-Kernel仕様書 |
ディスパッチ:dispatch | プロセッサが実行するタスクを切り替えることである。タスクディスパッチとも呼ぶ。また、ディスパッチを実現するカーネル内の機構をディスパッチャ、またはタスクディスパッチャと呼ぶ。 | |
デッドロック:dead lock | 複数のタスクが、お互いに相手の占有している資源の解放を待って待ち状態となり、その先の実行ができない状態を指す。 | |
デバイスドライバ:device driver | デバイスに関連した処理を行うソフトウェアの総称である。なお、T-Kernel仕様においては、デバイスドライバのインタフェース仕様も標準化されている。 | |
動的API : dynamic APIs (I4) | 通常のプログラムの実行によりオブジェクトの操作を行うAPIである。μITRON4.0仕様書では、静的APIを大文字で記述し、動的APIを小文字で記述する。 | μITRON4.0仕様書 |
排他制御:exclusion control | 複数のタスクやプロセスからの同時アクセスによる競合を防ぐための制御を行う仕組みを排他制御と呼ぶ。 | |
ハンドラ:handler (I,T) | システムやタスクの通常の処理に割り込んで実行されるプログラムを総称してハンドラと呼ぶ。割込みハンドラ、例外ハンドラ、タイムイベントハンドラなどがある。 | ITRON仕様書全般, T-Kernel仕様書 |
ビルド:build | プログラムを動作させるために、ソースコードのコンパイルやライブラリのリンクを行い、実行可能なファイルを作成する作業である。 | |
プリエンプト:preempt | タスクの状態遷移において、タスクの実行権が他のタスクに奪われ、タスクが実行状態から実行可能状態へ移行することである。 | |
プロセス:process | 独立したメモリ空間とリソースが与えられて動作するプログラムの単位。T-Kernel ExtensionやUNIX系のOSで使われる語である。T-Kernel Extensionの場合、1つのプロセスには複数のタスクが含まれる。 | |
プロトコル:protocol | コンピュータ同士が通信するために守らなければならない通信手順、通信規約をプロトコルと呼ぶ。 | |
プロファイル:profile (I4) | 高級言語で記述されたアプリケーションプログラムの移植性を保つために、カーネルが最低限満たすべき機能要件を定めるものがプロファイル規定である。 μITRON4.0仕様には、スタンダードプロファイル、ベーシックプロファイル、自動車制御用プロファイルなどのプロファイルが定められている。 | μITRON4.0仕様書 |
ベーシックプロファイル:basic profile (I4) | μITRON3.0、μITRON4.0、T-Kernelにおいて同等の機能を持つサービスコールをまとめたプロファイルである。ベーシックプロファイルは、μITRON4.03で採用された。ベーシックプロファイルを使用すると、μITRON3.0、μITRON4.0、T-Kernelの間でのアプリケーションプログラムの移植が容易となる。 | μITRON4.0仕様書 |
ポーリング:polling | 通信やデバイスの制御などにおいて、定期的に状態の問合せを行うことにより状態の変化を確認する手法である。 | |
マルチタスク:multi-task | 複数のタスクを同時に並行して実行するOSの機能である。CPUの処理時間を時分割して複数のタスクに割当てることによりマルチタスクを実現する。 | |
未定義 :undefined (I4) | ITRON4.0仕様書では、OSの動作や振る舞いを仕様上定めていない箇所を未定義としている。未定義とはそのような状況における振舞いに関して何も保証されていないことを意味する。最悪の場合、関連するタスクだけではなく、システムダウンを引き起こす可能性もあるので、未定義の状況にならないように注意が必要である。 | μITRON4.0仕様書 |
ミドルウェア:middle ware | OSとアプリケーションの間の階層に位置し、アプリケーションに対して共通的、汎用的な機能を提供するプログラムの総称である。TCP/IP、ファイル管理、画像の圧縮・伸張プログラムなどが代表的なミドルウェアの例である。 | |
メイク:make | UNIX系のOSでは、プログラムを開発する際に、makeというコマンドを入力し、makefileと呼ぶテキストファイルにしたがってコンパイル、リンクを行う。再コンパイルの場合、makeコマンドはmakefileに記述されたファイル間の依存関係に基づき、更新されたファイルのみをコンパイルするので、コンパイルにかかる時間を短くすることができる。ソースコードをバイナリコードに変換する際に利用されることが多いので、ビルドとほぼ同義で用いられる。 | |
メッセージ:message | タスク間で通信される情報のことである。 | |
優先順位:precedence (I,T) | 処理の順位を決める順序関係を優先順位と呼ぶ。優先順位の低い処理を実行中に、優先順位の高い処理が実行できる状態になった場合、優先順位の高い処理を先に実行するのが原則である。 | ITRON仕様書全般, T-Kernel仕様書 |
優先度:priority (I,T) | 優先度は、タスクやメッセージなどの処理順序を制御するために、アプリケーションによって与えられるパラメータである。優先度を表す数字には、1から連続した正の値を用い、ITRONおよびT-Kernelでは、値が小さいほど高い優先度を意味する。優先度に対し、優先順位は、中の処理順序を明確にする概念である。 | ITRON仕様書全般, T-Kernel仕様書 |
ユビキタスコンピューティング環境:Ubiquitous Computing Environment | 生活や社会のいたる所にコンピュータが存在し、コンピュータ同士が自律的に連携して動作することにより、人間の生活を強力にバックアップする環境である。 ubiquitousとはラテン語で「遍在」を意味し、どこにでもコンピュータがある(コンピュータの機能を利用できる)ことを意味している。 | |
弱い標準化:loose standardization (I) | ITRON仕様が当初から採用している標準化の方針である。1984年にITRON1仕様が策定された当時、マイクロコンピュータの性能、メモリの容量が限られていた。このため、RTOSの実装方法やすべてのAPIを完全に統一するには無理があった。そこで、RTOSの主たるAPI仕様を標準化するものの、実装方法や割込み、例外などに関する仕様は各メーカに任せる方法が採用された。この方式を弱い標準化と呼ぶ。 | ITRON仕様書全般 |
ラウンドロビン:round-robin | プロセッサを時分割で利用する手法の一つで、各タスクを一定時間ずつ順番に実行する手法である。巡回的並列処理とも呼ぶ。ラウンドロビンでは、持ち時間を使い果たしたタスクは一旦中断されて行列(レディキュー)の最後に回され、次に行列の先頭になったタスクが実行される。ラウンドロビンスケジューリングの対象になっているタスクでは、制御を切り替えながらすべてのタスクが時分割で順番に実行される。 | |
リアルタイムオペレーティングシステム:Real-time Operationg System | 「RTOS」を参照。 | |
リアルタイムシステム:real-time system | 厳しい時間制約を守るように設計されたシステムをリアルタイムシステムと言う。リアルタイムシステムの種類としては、ハードリアルタイムシステムとソフトリアルタイムシステムがある。 | |
リアルタイム処理:real-time handling | 時間的な制約の厳しい処理を意味する。より具体的には、処理結果を出して何らかの反応を返すまでの時間の最悪値が、制限時間内に収まるような処理である。 | |
リソース:resource | 「資源」を参照。 | |
リングバッファ:ring buffer | データのバッファ領域をリング(環)状に管理し、バッファを最後まで使ったら最初に戻るようなデータ構造である。 | |
リンクリスト:link list | データを保持する複数の領域をポインタ(リンク)でつないだデータ構造である。単一の方向だけにポインタをつないだ単方向リンクリストと、双方向にポインタをつないだ双方向リンクリストがある。 | |
レディキュー :ready queue (I,T) | RTOSにおいて、実行可能状態のタスクを管理するために使用するキューのことである。タスクは実行可能状態(READY状態)になると、優先度に応じた行列につながれる。この行列のことをレディキューと呼ぶ。OSは、レディキューにつながれた最高優先度のタスクのうち、先頭のタスクを実行する。同じ優先度のタスク間では、FCFS(ファーストカム・ファーストサーブ=先着順処理)方式と呼ばれるスケジューリングを行う。 | ITRON仕様書全般, T-Kernel仕様書 |
割込みハンドラ (I,T):interrupt handler | 外部割込み発生時に起動されるハンドラである。割込みハンドラの起動により、そのときに実行中だったタスクの実行は中断されるが、割込みハンドラの起動は CPUのハードウェアにより直接行われ、OSは経由しない。割込みハンドラは、どのタスクよりも高い優先順位で実行される。 | ITRON仕様書全般, T-Kernel仕様書 |
出典
組込みシステム実践プログラミングガイド
ITRON仕様OS/T-Kernel対応
平成20年8月1日 第1版発行
監修 坂村 健
著者 社団法人トロン協会
発行所 株式会社技術評論社